log7/花待りか



「おはよぉ、エリ兄〜」

2階の自室からリビングへ下りて来た舞流はまだ眠たそうに欠伸をし、目を擦っている。その後ろにいた姉の久瑠璃も同じようにしていた。二人ともまだパジャマのままだ。

「ああ、おはよう、二人とも。…というかお前たちはいつもこんな時間まで寝てるのか?」
「休…」
「日曜だもん、いいじゃないゆっくりしてても」

そんなものかな、と慧也はテーブルの上にあった財布をズボンの後ろポケットへと入れた。自分はなかなか一日まるっと休みというのが取れなかったものだから。ついているテレビが10時を告げている。双子の妹たちはぼすんとソファに座って顔だけ慧也に向けた。

「もう出るの?」
「外?」
「うん、ちょっと恵比寿の方まで出ようかなって。夜までには帰るつもりだけど、まあまた連絡するよ」

くしゃりと慧也は二人の頭を撫でた。二人はくすぐったそうに笑う。慧也が9歳の時に生まれたこの妹たちを、慧也は勿論大事に思っていた。慧也は高校卒業後にすぐに渡米してしまったので、二人を最後に見たのは6年も前だ。成長したな、と嬉しく思った。

「戸締りはしっかりしておくよーに」
「はーい。いってらっしゃーい」

慧也は二人に手を振ると、リビングを出て廊下を歩く。この家も昔は父と母と兄妹、6人で、賑やかだったものだが。今や皆バラバラの生活だ。少し寂しい気もするが、自分も外国で暮らす身だし、何も言えない。こちらに置きっぱなしだった昔買ったショートブーツを思い出し、靴箱の奥から引っ張り出して履いてみる。サイズが心配だったがもう成長期ではないためか、問題なく履けた。丁寧に紐を結び、慧也は家を出た。






紫と濃い青の落ち着いたチェックのシャツに、黒いジレベスト。細めのデニムはブーツに裾を入れ、カジュアルな今風のファッション。こちらに来てからずっと臨也に間違われ続けているので、今日は大きめのサングラスもかけている。それでも慧也へ集まる視線はかなりのものだった。

「あの人かっこいい…!」
「きゃあ、こっち見たよっ」

そのほとんどは女性からで、慧也は何度か声もかけられた。だが今日は一人で好きなように買い物をしようと決めている。やんわりと断っていると、今度は後ろからとんとんと肩を叩かれた。

「、はい?」

振り返ってみれば、そこには黒いライダースーツを身に纏った女性が立っていた。黄色いヘルメットを被っており、慧也はきょとんとする。慧也の顔を見ると慌てたように手に持っていた携帯のようなものへ文字を打ち込んだ。

『す、すみません、人違いで…』
「えっと…」

茶色のグラスごしにその文字は見えにくかったため、慧也はサングラスを取った。すると女性ははっとしたようにまた文字を打ち込む。その速さに慧也は驚く。並大抵の速さではなかった。

『やっぱり臨也か!』
「え?」
『ビックリしたんだぞ、掲示板で静雄と談笑してるなんて書かれていたからっ…』
「静雄くんと?」

静雄くん。そう言っただけでピシっと目の前の女性は固まってしまった。慧也は首を傾げることしかできなかった。



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