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呆れたように笑う彼が、一度私が零した言葉を忘れずになにかにつけて私をからかう彼が、私はどうしようもなくすきだ。私が好きなこと、嫌いなこと、理由を聞かずにそのまま受け入れてくれる彼がすきだ。




「私ね、雨が嫌いなの」

「……よくこの国に住んでられるな」

「引っ越すのは現実的じゃないでしょ」

「嫌いなわりには、雨の日によく窓を見てるよな」

「外に出るのが嫌いなの」

「へえ」

「私に対して迷惑をかけなければいいの」

「本当わがままだな」


冷える窓辺に座る私に彼はいつだって杖を一振りしてブランケットを肩にかけてくれた。時には暖かいコーヒーすら淹れてくれた。彼は私のことを否定しないけれど自分をまげはしないから、絶対に私が好きな淹れ方をしたコーヒーは飲まなかった。それに対して不満はなかった。私が好きなもの、嫌いなものに合わせるような彼なら、そもそも私は好きになっていなかったのだ。


「風邪ひくなよ」

「ひいたら何とかしてくれる?」

「知らないな」

「ひどい」

「自己責任だろ」

「だってそばにいてくれるんじゃないの」


彼を試すような言い方をするのは私の嫌な癖だった。彼は絶対に不確実な約束はしなかった。たとえば明日は仕事はないから出かけようとか(だっていつも仕事は急だったから)。


「ごめんね」


彼は何も言わなかった。だから私は謝った。そして彼は私をブランケットごと抱きしめた。ブランケットにはもう彼のにおいが染みついていたけれど、抱きしめられたことでさらに彼のにおいが強くなった。いったいいつまで、と何度思ったかわからなかった。




「ねえ、また今日も雨が降ってるよ」


ひとり、私は呟く。それがいつのまにかそれが癖になっている。私の言葉を嗜める彼はいないし、彼のにおいだって思い出せなくなりそうだ。なのに、雨がたくさん降るこの国で、雨が降れば彼のことを思い出す。私にブランケットをかけてくれた彼、コーヒーを淹れてくれた彼、ただそばにいてくれた彼。あんなに嫌いだった雨も、彼を思い出すことができるから好きになりつつある私は呆れるくらい単純だ。私は杖を振ったってコーヒーひとつ淹れられないし、ブランケットだってかけられない。彼が言うようにいきなりふくろうだってやってこないし、杖が私を選ぶこともないし、彼と同じ学校に通うこともないし。月並みな言葉で言えば、世界が違った。それなのに私は彼に出会ってしまったし、すきになってしまった。こんなに苦しくなることも、彼が決して約束をくれないこともわかっていたはずなのに。

本当に自己責任だ。彼を責めたくても、責めることなんて出来やしない。



20180930