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- ナノ -

彼女との最後の食事から、わたしの口は食べ物を全く受け付けなくなってしまった。自分なりにあの日の食事を再現しようとか考えてみたところで、わたしになどできるはずもなかった。あの味を忘れたくなどないからなのか、なにを食べてもゴムみたいだし、味なんかちっともしない。熱さと冷たさしか感じなくて、食べる気も失せていってもはや微塵も残っていない。

目を閉じれば赤い髪がさらさらなびいて、緑の瞳がきらきら輝く。嫌なくらいに鮮明に思い出すのに、みんなはどんどん忘れていくのだ。わたしは彼女との思い出がなくなっていくのが怖くて。わたしは彼女の声を忘れたくなくて。わたしは彼女への気持ちを忘れたくなくて。彼女と初めて出会った時からわたしの心には彼女しかいなくて。彼女がこの世を去ったところでわたしの心は彼女のことしか考えられなくて。

どれだけわたしが彼女といられて幸せだったか、彼女はきっと知りもしないのだ。だってわたしは伝えられなかったから。
どれだけわたしが彼女のことをすきだったか、彼女はきっと知りもしないのだ。だってわたしは伝えられなかったから。

わたしだって気付かなかった。知らなかった。気付きたくもなかった。知りたくもなかった。だってこんなに苦しいなんて思いもしなかった。あの人が彼女をこの世界から消し去って世界には平和が訪れたとか、そんなことはどうでもよくて、彼女がいてくれればわたしの世界は平和だったのに。

このまま彼女のところにいけるなら本望だ。だって彼女がいなければこの世界になど生きている価値もなくて、彼女のところへのいき方なんて、たとえ彼女が微塵も望んでいないと言われる方法でだって構わないのだ。


20170830