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いくらわたしが魔女だって、彼の世界を指先ひとつで変えられるはずがない。そして変えたところで虚しいだけだ。彼は彼らしく生きて欲しいから、わたしなど介入する隙もない。

彼と一緒の学年に産まれただけで奇跡だ。彼と一緒の学校に通えただけで奇跡だ。彼と一緒の授業を受けられただけで奇跡だ。ひとつひとつ彼と一緒であるという事実を奇跡だって数えるだけで幸せな気分になれる。

そんなわたしを、友達はそこまで奥ゆかしくてどうするのとか、いっそぶちかませば良いのにとか笑ってきて、笑われたところで行動にうつせるかといえば全く別の話なのはみんなわかってるはずなのに、外野だから適当なことを言える。

奥ゆかしいとか、そんなことはない。わたしだって人並みに欲ぐらいあって、そりゃあ彼と一緒に授業を受けたいだとか、彼と一緒に歩きたいだとか、彼と一緒に休み時間を過ごしたいだとか、思わないわけじゃない。

いや、言ってることが矛盾してない?って言われたところで、人間の気持ちなんてそんな単純じゃないでしょってわたしは答えるしかない。彼の世界をわたしが介入せずにそのままに、その世界の片隅に彼が気付かない範囲で存在していたい、っていう気持ちと、彼の世界をわたしが介入することで、わたしの存在を彼に気付いてもらいたい、っていう気持ちとが日によってどころかその時々によって高まったり落ち着いたり、わたしでさえよくわからない。けど、総じて言えるのは、後者の望みを叶えられるほどわたしには影響力もないし、望みを抱くのも虚しいだけっていう身の程を知っているのだ。

身の程を知っているって言ったって、後悔は積み重なっている。授業で一緒になった時に話しかければよかった、近くに座ればよかった、教材を渡せばよかった。そうやって1秒1分1時間1日1週間1ヶ月1年が過ぎて、いつの間にか「一緒だ」じゃなくて「一緒だった」っていう事実になった。

卒業したあとになにをしているのかも知らない。どこに住んでいるのかも知らない。誰といるのかも知らない。知らないことが多過ぎて、最早なにを知っていると思っていたのかもわからない。本当にわたしは彼と一緒の空間にいたのか、本当にわたしは彼と同じ国や地域に住んでいたのか、本当にわたしは彼と同じ歳に産まれたのかとか、どんどんわからなくなってきてしまう。

そしてある日、彼は突然わたしの前に現れた。現れたといってもひどく二次的な情報としてだった。彼がグリフィンドール出身だけど闇の一派で、親友のあの人を裏切って殺して、結局投獄されてしまったという話だった。

ああ、よかった。何にも言えなくて。だってもしかしたら奇跡が起こるかもしれないから。有り得ないかもしれないけど、有り得たらこんな人だって知らないままわたしだって巻き込まれたり殺されたりしたかもしれないし。あれだけしてきた後悔が嘘のように安堵に変わった。だって、わたしは彼のことを最早神格化していたような気がするから。知らなかったのだ、本当に。知らなかったから、そんな人だったんだってものすごく驚いていて、軽蔑している。

そしてある日、彼は突然わたしの前に再び現れた。現れたといっても再びひどく二次的な情報としてだった。彼は実は無実で、本当は誰のことも裏切っていなかったという話だった。

ああ、わたしは馬鹿だ。何にも言えなかったなんて。だってもしかしたら奇跡が起こるかもしれないから。有り得ないかもしれないけど、有り得たらこんな人じゃないって知っているから。あれだけしてきた安堵が嘘のように後悔に変わった。だって、わたしは彼のことを信じきれなかったから。知っていたのに、本当は。知っていたから、そんな人じゃないはずなのにってものすごく驚いて、軽蔑してしまっていた。

いくらわたしが魔女だって、彼の世界を指先ひとつで変えられるはずがない。その事実は変えようもない事実だとわかっていても、何度も後悔を繰り返して、彼の隣にわたしがいたらなんてくだらない妄想を抱いていたら結局わたしの世界から彼は消えて、彼の世界にはわたしの入る隙は微塵もないまま閉じた。



20170720