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小さい頃から兄と比べられ、あの家の中では兄よりも評価され、きっと世界もそうなのだと信じていた。だが、一歩家から外に出れば学内の中でさえ様々な指標があって、それにめまぐるしさと息苦しさを感じて、振り回されている自分にも嫌気がさして、一体何を信じればいいかもわからなくなって、唯一信じていた存在には裏切られて。自分には何にもないのだ、と思う。自分という存在すらよくわかっていないのだ、と思う。

なのに、なぜ彼女は自分を見るのか。彼女には自分と関わることで生じるメリットなどひとつきりもないのだ。自分がいた世界とはかけ離れた世界に生きていた彼女には、自分より兄の方が好ましく思えるのではないか。ただ絶望と矜持のみに突き動かされて唯一の目的を果たそうとしている自分に、他の誰も気付かないのに何故彼女だけ気付くのか。


何故って、愛だよ。

そう彼女は笑いながら、どこかのマグルの歌みたいな陳腐でくだらないことを言う。何度突き放しても自分の元にやってくる彼女は鬱陶しい。いつも同じように愛だとか嘯く彼女には嫌気がさす。何より、彼女と関わることで自分に生じるメリットもひとつきりもない。どんどん辛辣さを増していく自分の言葉に、彼女が傷付かないはずがないのに、彼女はそれを自分に見せない。そんな彼女に苛立ちが増して、更に自分は彼女を傷付ける言葉を繰り返す。それでも彼女は笑うのだ。そして繰り返し愛だとかつまらないことを言うのだ。

そもそも愛というものはきれいなものではないのか。彼女が突き放されても自分へ戻ってくるその動機が愛なのであれば、自分にとっては求めていない相手からの気持ちなどひどく迷惑だ。ただ、彼女は自分の気持ちを理解しているのだ。だからなおのこと、不快なのだ。彼女は愚かだ。


うん、愚かでいいよ。

彼女はそう言った。そしていった。だからと言ってもっと彼女に優しくすればよかったとか、いっそ彼女を愛せればよかったとか、そんな風に悔んだことは一度もない。むしろ自分と関わったからこういうことになったのだとか、彼女を責める理由ばかりが積み重なっていく。何度でも言う、彼女は愚かだ。だから愛なんて信じられない。愛で誰かを救えるなら、こんな世界になどなっていないのだ。彼女は愛だとか言っても自分を救ってはくれなかったし、自分を愛していると言っていた彼女は自分のせいでいった。

いっそ清々すると思えたらよかった。カーテンに徐々に染み込んでいく煙草の脂みたいに、彼女のことを忘れられないし、ふとした瞬間に思い出して、胸の奥が握りつぶされたみたいに苦しくなる。何故自分のことを放っておいてくれなかったのだ、何故自分なんかを愛したのだ、何故どこか知らないところで生きていてくれなかったのだ。そう、彼女に言えばよかった。自分のそばにいるより、ずっとその方が良かった。ずっとその方が、しあわせだった。



20170327 企画サイト提出分
タイトル:夜(伊織様)より