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「それ、いいね」

「ああ、ロンのママが編んでくれたんだ」


ハリーの緑の目が嬉しそうにゆがむ。柔らかそうであたたかそうなセーターを私にも編んでほしいと思っているわけではなくて、私もハリーに嬉しそうな顔をさせたいだけだ。でも私はセーターなんて編めないし、ハリーだって一度のクリスマスに何枚ものセーターは要らないだろう。


「いいな、とか思ってるんだろう?」

「なにが」

「君もハリーを喜ばせたい、とか」

「……馬鹿にしてるの?馬鹿にしてるんでしょ」

「わかっているなら聞くな。セーターなんて編めもしないくせに」


自分で言うならまだしも、人に言われるのは不快だ。シリウスは犬よりも猫らしくにやりと笑って私の頭を小突く。その手を払いのけて私は思い切りしかめ面をした。さらに笑いを深めたシリウスにふん、と鼻を鳴らして背を向ける。

シリウスはいつも私に対しては意地悪だ。40も近いおじさんなのに。ハリーたちの前では大人ぶって理解のあるふりをするのに。私だってシリウスより年下なのに。私と同い年のトンクスには優しいのに。私にももう少し優しくしてくれたっていいのに。

ふぅ、とシリウスのせいでついたため息はもう数え切れない。ソファに座り込み、マグカップを呼び寄せてホットチョコレートをいれる。


「おいおい、本当に君は子供だな。こういう時に飲むのがホットチョコレートなんて」

「チョコレートを食べれば落ちつくってリーマスが言ってたし」

「………へぇ」

「暇なの?」

「あぁ、暇だな。わたしは外に出ることを許されていないから」

「………………」

「気長に君には編めもしないセーターを待つぐらいの余裕はあるさ」

「……あ、編めるし」

「へえ?」

「本当、私のこと馬鹿にしすぎ。私だって魔女だし編めるよ。これでもそこそこ優秀だし」

「わたしほど?」


それを言われたらぐうの音も出ない。私がホグワーツに入学をしたのはシリウスたちが卒業したあとだったけど、シリウス・ブラックの"名声"は未だに根強く残っていたからだ。ハンサムで優秀だったシリウス・ブラックは、唯一無二の親友を裏切って、殺して、アズカバンに収監されたと。私の身内はあの人に殺されたし、親友のトンクスが騎士団に入るから、とそのまま入った。だけどまさかシリウス・ブラックがいるなんて思わなかったし、そもそも無実だと知ってびっくりだし、実はこんな人だとは微塵も思わなかったし。


「そうだね、シリウスほど優秀なわけがない」

「おいおい、いじけるなよ」

「事実を言っただけ」

「まぁそうだけど」

「……本当、何が言いたいの。何でそんなに絡んでくるわけ。私はお子様だから不快なことに我慢できないし、私ばかりいじめられてるみたいで本当に嫌なの」

「………ふぅん」

「だから、言いたいことがあるなら、」

「君はセーターを編んだことがあるか?」

「……え?ないけど」

「じゃあ、わたしに編んでほしい」

「…………どういう、」

「君のお気に入りがハリーなのは知っているが、わたしのことを見てくれないのはひどく不快でね」

「……え、」

「わたしが君の心をかき乱しているのは気分がいいが、それを落ち着かせるのがリーマスのアドバイスによるチョコレートなのは気に食わない」

「ちょ、っと」

「できれば、君の心にいるのはわたしだけが良いってことさ」

「あ、の」

「いいな、その顔」

「ま、まって、」

「待たない、が、まず手始めに君にとってはじめてのセーターを編んでくれるというなら待つ、わたしだけのためにね」


じりじりと近づいてくるシリウスの顔から出来るだけ離れようと、首と背中をそらす。こんな状態の顔、絶対に他人に見られたくないのに『いいな』だなんて何てことを言うんだ。目をつぶりそうになる、泣きそうになる。でもそんなことしたら逃げたみたいだから絶対に嫌だ。ぐっとシリウスの肩を押すけれどびくともしない。口から変な唸り声が出て、シリウスが数インチの距離で笑う。


「や、やだ」

「わたしも嫌だ」

「……じゃ、じゃあ、考えさせて、検討させて」

「…………つまりその間、わたしのことを考えてくれるってことだな、まあ譲歩しよう」


シリウスの乾いた指先が私の頬を撫ぜて離れた。シリウスの顔は笑みを深くして私から離れた。助かった、と思ったら手を掴まれて、私の指先にシリウスの唇が触れる。


「1年は待たないぞ。この冬中にセーターを完成させるように」


本当に拒否権はないのか。口を開けたり閉じたりしている私を見て、横暴な言葉とは裏腹に優しい顔で私の頭を撫でて、今度こそ私から離れていった。いつの間にか私の手からはマグカップの重みが消えていて、私のセーターには茶色いチョコレートの染みが出来ていて、今度こそ涙で視界がゆがみつつ杖を取り出して染み抜きをする。シリウスのセーターを編むか編まないかは別にしても、このセーターを着るたびに絶対今の一連の出来事を思い出してしまうのは確実だ。



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