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触れてもいいですか。


私よりもずいぶん大きな身体なのに、小さく溶けていくように見えた。


おねがい。


小さく呟けど、彼は身じろぎもしなかった。恐ろしいほどだった。触れれば消えてしまいそうだった。それでも、と手を伸ばした。触れてみれば暖かくて、彼は生きているのだと少し笑えた。


君は馬鹿だな。


嘲笑とさえ感じられる言い方だった。


僕に未来は無い。無駄でしかない。


なぜわざわざ暗がりへ向かうのか、愚かなことでしかないのに、と世間一般ではそうだとわかっていた。衝動など私には存在してないものと思っていた。この時になるまでは。三文小説のようなくだらない展開とすら思えた。けれど、抑えきれるほどの理性は私にはなかった。ただ彼のそばにいたかった。ただ彼に触れていたかった。ただ彼に触れられていたかった。ただ世界に2人きりだと思えるほど近くで時を過ごしたかった。もっとも彼からはありえない未来だったけれど、ありえない将来を想像することすら、私には愚かなことに思えなかった。結果を予期したくなかったからこそ、彼の消えそうな熱に溺れたかった。


おねがい。


私はもう一度懇願した。諦めたように笑った彼は美しくて、もう早々に消えてしまいそうだった。もう耐えきれなくて、許されてすらいないのに、私は彼に触れた。滑らかな肌だった。所々傷がなければ、造りもののようにすら見えた。


君は暖かいな。僕が溶けてしまいそうだ。


慣れない冗談を言って笑う彼は、後に何が起こるのかを受け入れているようにすら見えた。彼も暖かかったのに。恐ろしくないはずなどなかったのに。それを指摘することすら憚られた。私だってその将来を受け入れたくなどなかったのだ。


溶けたら固めてあげますよ。


私は下手な冗談を言って笑った。彼も穏やかに笑った。この瞬間が永遠に続けばよかった。

その夜、彼が消えた。いつもなら2人分の温度があるはずのベッドには、朝方には私1人分の温度しかなかった。いってしまったのだ。彼はずるい人だった。彼は泣かなかった。泣く術を知らなかったのかもしれない。だから私は2人分泣くのだ。今も。




20150411