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俺は随分身勝手な人間だ、と以前名前に話したことがある。経緯は忘れてしまったが。名前は目を丸くして、何故、と聞いた。俺は随分自棄になっていたらしい、理由がわからなくとも居心地の悪かった家から少しでも離れられて嬉しい、と思っていたくせに、ホグワーツで嫌なことがあればこんな場所なら家の方がマシだと思ったり、グリフィンドールに入れて死ぬほど嬉しかったくせに、厭味を言われたり親に怒鳴られたりすればスリザリンの方が良かったんじゃないかとか思ったり、などなど、べらべらと聞かれもしないことを話してしまった。否定されることを俺は期待していたのだろう、名前に幻滅しただろ?と尋ねた。うん、そんな人だと思わなかった、と名前が答えたことにガンッと頭が殴られたような衝撃を受けた。でも、と名前が言った。シリウスが人間らしくて安心した、自分が完璧だと思ってる人間よりずっと良いよ、と名前は微笑んだから、俺は柄にもなく涙を流しそうになったんだ。


「くくっ……」

「え?何?」

「何でもないさ」

「気になるから言ってよ」

「じゃあ、この記事の内容が面白くて」

「……殺人事件の記事のどこが面白いの?」


おっと、やってしまった。新聞なんか見てただけで内容なんてちっとも頭に入ってなかったからな。神経を疑うような目をされて、「冗談」と笑ってみせる。名前はまだ疑わしげな顔をしていたが、これ以上は無駄だとわかったのかふいっと俺から目をそらした。


「そうだね、猟奇的殺人犯のミスター・シリウス・ブラック?」

「おいおい、それを言うなよ」


「冗談」と名前が笑って、12年前よりは老けたけれど変わらなく微笑んだから、俺の頬を伝う涙を隠すために新聞で顔を隠す。「シリウス?」、なんてそんな甘い声で俺の名前を呼ばないでくれ。名前の声は空気に溶け込むみたいで勿体ないから俺はキスするんだ、なんてなんとも気障なことをプロングスやムーニーに話したことがある。そのときの2人の顔といったら、まるで精神異常者を見るような目だった。いや、でも俺は多分間違ってはいないはずだ。その思いは今でも変わらない。


「泣いてるの?」

「ばーか、見るな」

「泣いてる」


肩にかかる負荷は重く感じない。名前の笑う声が低く耳に響いて、肩に埋められた頭をわざと乱暴に撫でる。


「痛いよ、ばか」

「痛くない」

「痛いってば」

「名前、」

「ん?」

「ありがとう」

「………本当に、ばか」


肩に感じた水分には気付かない振りをしよう。プロングスや友人がいなくなってからどのくらい死にたいと思ったことだろう?たとえ気障と言われようと耳元で低く囁く愛の言葉に偽りは1つもなくて、痛いくらいに抱きしめてくる名前の体温も存在も本物で、ああ生きたい、生きたいんだ。出来ることなら名前と同じときを歩みたいんだ。やっぱり俺は随分身勝手な人間らしい。




20101101



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