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その年のクリスマス休暇は姉が帰ってきた。驚いたことに、シリウスとのことが起こる前の姉に戻っていた。1年ほどの冷戦状態が続いていたからこそ、最初は受け入れることができなかったけれど、姉と話すのは楽しかった。


「ごめんなさいね」

「何が?」

「私、子供だったわ。だけどもう大丈夫、私は幸せだから」


姉の言い分は、確かにシリウスのことを好いていたけれど、今は恋人が出来たのでもうシリウスのことはどうでも良い、ということだった。俄には信じ難かったけれど、シリウスに抱いていた恋心は、より大きくなって今の恋人に向けられていると話した。


「名前は?シリウスのことがすきなの?」

「違うわ」

「あら、私に気を使わなくてもいいのよ」

「違うの、本当に。………姉さんはいつも素敵だったわ、恋って素敵なものだっていうことがものすごくわかったもの」

「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ」

「だから、わたしなんかにはそんな素敵なものができると思えないの」

「………どういうこと?」

「わたしは、そんな素敵なものができるほど素敵な女の子じゃないわ」


姉は一瞬目を見開いて、溜め息をついた。姉が溜め息をついた理由がよくわからなくてわたしは思わず黙ってしまった。姉と久しぶりに話せたのが嬉しいのに、わたしはどうやら失言をしてしまったようだった。


「そ、そういえば」

「なに?」

「あの、マグルって、わたしのような人のことでしょう?」

「ええ、魔法が使えない人たちのことね」

「だったら、スクイブってどんな人たちなの?」

「あなた、それをどこで知ったの?」

「……その、」

「別に責めているわけではないわ、ただ、そうね、魔法使いの家系に生まれたのに魔法が使えない人のことよ」


姉から聞いたわけではない言葉だから戸惑ったということはわかった。それでも、まだあの眼鏡の人から言われたのだということは言えなかった。利用されているということまで話さなくてはいけないと思ったからだった。最初から、そういってくれればよかったのだ、シリウスは。そうすれば1年も姉と話さないで済んだのだ。そして、これほどまでに苦しい思いをするはずもなかった。

黒いふくろうは相変わらずやってきて、そのことに泣いてしまうことも多くなった。はっきりさせることでこのつながりを断ち切りたくないという気持ちと、はっきりさせることでわたしのこのもやもやを晴らしたいという気持ちがぐるぐるわたしの頭の中を巡った。いつの間にか黒いふくろうはわたしが手を伸ばしても嫌がらずに触れさせてくれるようになっていた。星は綺麗に輝いていて、シリウスの瞳のようだった。わたしがシリウスを思うように、シリウスもわたしのことを思っていてくれるのかはわからなかった。細すぎる繋がりに縋っていることが嫌になってきてもいた。−マグルのくせに。−と姉に書かれた手紙はまだ捨てられていなくて、それでもわたしがマグルだからシリウスと知り合うことが出来たのだから、マグルでよかったとすら思ってしまうわたしは本当に愚かだった。

−今年のクリスマス休暇は会えなかったけど、また夏休みに会えるのを楽しみにしてる。メリークリスマス。−

しわがつきそうなくらい強く握りしめそうになった手を慌ててゆるめた。姉はもう学校に戻った。わたしもそろそろ学校が始まってしまう時期になっていた。イースター休暇には帰ってくることのないらしいシリウスに、わたしは手紙を書くしかなかった。暑くもないのに手には汗をかいていた。恋とは、何なのだろう、とわたしは思った。友人も姉もあの眼鏡の人も、わたしはシリウスのことをすきだと考えていた。恋の定義は何なのか、その定義はわたしにも当てはまるのか、そもそも利用しているのが本当ならあの眼鏡の人が言ったようにたとえ恋だとしても無駄なのではないか、と疑問は浮かんだけれど、それでもわたしにはそれを手紙を介してシリウスに尋ねる勇気はなかったのだ。

−とても残念だった。わたしも夏休みにシリウスに会えるのを楽しみにしているわ。メリークリスマス。−

これが本当に恋だというのなら、本当に分不相応でしかないことはわかっていた。なのに姉も友人もあの眼鏡の人も、わたしがシリウスに恋をしていると言ったのだ。わたしはまだ恋を知らなかった、だから恋というものをわたし自身で定義するものなのか、誰かに定義されるものなのかもわからなかった。だからこそ、わたしにわかったことは、出来ることなら声を聴きたかった、出来ることなら姿を見たかった、そう思っていたことだけだった。



20151231