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1日1日と過ぎていき、いつの間にか学年末試験も終わって姉を駅まで迎えに行く日になっていた。どうやらわたしと姉に何かしらの問題があったらしいということにはさすがに両親も気付いていた。そして駅までついてくるかどうかまでたずねてきた。今更毎年行っていたのに行かなくするのはおかしいし、それこそ溝を広げそうな気がした。でも自分の本心かどうかは確信がなかった。本当はシリウスに会いたかっただけじゃないのか、とすら思った。それでも、姉に会うまでは姉に一番に会いたいと思おうとした。だけどやはり姉に会うのは緊張してどうしたらいいのかわからない一方で、シリウスにクリスマス休暇以来で会うことができるかもしれないことは嬉しくてたまらなかった。



「……久しぶりね」

「……うん、久しぶり」


たくさんの生徒が赤い汽車の中から出てくるなか、まっすぐわたしたちの方に向かってきた姉はちっとも笑っていなかった。両親は顔を見合わせた。けれど姉はそれに気付かない振りをして荷物をカートに乗せていく。不満そうな顔をした姉の猫がまた逃げ出そうとしたけれど、姉は絶対にそれを許さなかった。この猫のおかげでわたしはシリウスと知り合うことが出来た一方で、姉はおそらく嫌な思いをしたからだろう。だからわたしは何も言うことが出来なかった。姉の腕から逃げ出そうとしていた猫はわたしをじっと見たけれど、どうすることも出来なかったわたしは目を逸らした。その先に見えたのはシリウスだった。心臓が止まりそうになった。そして激しく動き出した。シリウスと会うのはクリスマス休暇の以来だったから、すでに6ヶ月が経っていた。


「行くわよ、ぼうっとしないで」


母からかけられた声にハッとした。振り返ると、さらに冷たい表情をした姉がわたしを見ていた。姉が来たからもうここにいる必要はないことも、そしてわたしの行動で姉を傷付ける可能性があることもわかっていたけれど、どうしてもシリウスと話したかった。不審な目を向ける母と父に、そして姉にひとこと謝ってから、人ごみを掻き分けて汽車の近くにいるシリウスに走り寄った。


「シリウス!」

「……ああ、名前か」

「ひ、さしぶり……」

「久しぶりだな」


慌てて髪を撫でつけた。そして思わず自分の服装を確認した。自分が変な格好をしていないか、シリウスに声をかける前に確認すればよかったと後悔した。相変わらずわたしは詰めが甘かった。


「何もついていないけど」

「な、何でもないわ」

「そうか。元気だったか?」

「うん、シリウスは?」

「まあまあだな」

「学期末試験、お疲れ様」

「まあ疲れるってほど、勉強していないけどな」


さらりと述べられた言葉には微塵も嘘を感じなかった。そして姉からの情報は正しかった、ということを実感したと同時に、罪悪感がどんどん募っていった。こうやってシリウスと話していることはわたしにとっては最高なことでも、姉にとっては最悪なことでしかなかったからだ。でも、わたしには後ろを振り返る勇気はなかった。背を向け続けた。ふくろうが運んでくれた手紙でしかない細いつながりを断ち切ってしまったのはわたしだったし、それを耐えることも難しかった。シリウスが何を勉強している科目も、そしてそれを理解しても使う能力はない、姉よりも愚かで綺麗でもないわたしは、こうして姉を傷付けてまでもシリウスとのつながりをもう失くしたくなかった。どこからか、シリウスを呼ぶ声がして、その声の主を探すと、初めてシリウスに出会ったときにもいたシリウスの母親が冷たい目をして立っていた。


「あぁ、うるさい母上のお出ましだ」

「……行かなくて大丈夫なの?」

「気にしなくていい」

「なら、いいんだけど」

「名前はいいのか?」

「大丈夫。……夏は忙しいの?」

「まあ、そこそこな」

「また、会えたら嬉しいわ」

「………驚いた。案外積極的なんだな」

「ち、違うわ、ただ、楽しかったの。シリウスと過ごすのが」

「冗談だよ。……あの時はそうは見えなかったけど」

「あの時はごめんなさい、緊張していて」

「いいんだ、気にするな。……そうだな、また連絡するよ。じゃあそろそろ行く」


シリウスはそう言って、当たり前のようにわたしを抱きしめた。するっとすぐにぬくもりが離れていった。シリウスがわたしを抱きしめて離れたと認識した瞬間、一瞬すべての音が消えた。その後に聞いたざわめきは耳に痛いほどで、冷や汗をかいたみたいに寒くて、顔だけが熱かった。


「またな」


と掛けられた声には呆然と頷くことしかできなかった。シリウス以外には何も目に入らなかった。ぼんやりとシリウスと、シリウスの母親と、もう1人シリウスより小さい身長の人が一瞬にして消えるのを見ていた。ぽん、と肩に何か手のようなものを乗せられて一気に現実に巻き戻された。見たことはあっただけの、眼鏡をかけた人がわたしの真後ろに立ち、ニヤニヤ笑いを顔中に貼り付けていた。


「シリウスのこと、好きになっちゃった?」

「………な、」

「それもそうか、あのルックスで優しくされたら好きになっちゃうよね、愚問だったかな」

「な、にを、言ってるのか、さっぱり」

「嫌だなぁ、そんなに怯えないでよ。別に悪いなんて一言も言ってないし」

「………いきなり話しかけてきて何なのよ」

「忠告だよ」

「……何の」

「シリウスは、君を利用してるだけに過ぎないってね。だからあんまり期待しない方がいいよ」


あいつはマグルとかスクイブのちょっとした知り合いが欲しかっただけだから、と眼鏡のかけた人は一層笑みを深くして私の元から立ち去った。



20151008