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どうやら姉がすきだと話していたのはシリウスのことだった、と気付くのが遅すぎた。だからわたしが初めてシリウスと出会った時にあんなに冷たい目をしていたんだ、とか、だからわたしが手紙を送っても返事をしてくれなくなったんだ、とか、色々疑問は解けてきたけれどもう関係はなかった。姉がその日を境に手紙を送ってくることはなかったし、何より−マグルのくせに。−とまで姉に言わせてしまった。決定的な溝を作ったのはわたしで、今更その溝を埋める事が出来るとは到底思えなかった。それなのにわたしはまだシリウスからの手紙を諦めきれていなかった。出掛けている間にあのふくろうがやってきていたらどうしよう、と考えて出掛けるのも億劫になったし、出掛けていてもちっとも集中出来ずぼんやりと過ごすようになってしまった。そしてその都度、姉を傷付けてまでシリウスに会いたがっている自分に気付き、自己嫌悪したのだ。


「最近元気ないけど」


見かねた友人が話しかけてきたのは学年末試験間近のことだった。そこそこ話すことはあっても、以前とは違って世間話程度の話題しか交わせていなかった。それは友人と喧嘩したこともあったからかもしれないけれど、なにより私が他人と話すことを避けていたからだった。シリウスのことも、姉のことも、誰にも言えそうになかったからだ。


「そうかな」

「やめなよ、わかってるくせに」

「……………」

「このままじゃ今年度の成績最悪なんじゃないの?」


そのまま溜め込むのは辛かった。自分でもどうしたらいいのかわからなかったからだ。でもどうやって言葉にすればいいのかわからないままだった。


「それは困るわ」

「だろうね」

「……わたし、魔女ならよかったのに」

「………頭、大丈夫?」

「……大丈夫」


この時ほど心から、魔女になりたいと思ったことなどなかった。わたしは姉のようにホグワーツに行くことが出来ないのだと知ったとき、ショックは受けたけれど、そのときはまだ尊敬するべき姉だ、と思えた。ただ、このときは違った。わたしも姉のように魔女であったなら、−マグルのくせに。−なんて言わせなかった。シリウスと出会っても、姉のことを考えられた。シリウスと一緒に学校にいることだってできたし、文通だってもっと容易だった。


「わたし、やっぱり最低だわ」


そうやって口にするあたりも最低だと思えた。言葉にすることで、誰かから否定の言葉を貰いたいと考えているのは自分でも嫌なくらいにわかったからだ。友人は何も言わず、ただわたしを軽く抱きしめて去って行った。結局、姉を傷つけておいても自分のことしか考えていなかった、ということがそれまで以上に思い知らされただけだった。

その日の夜、闇に紛れてやってきたのはあの黒いふくろうだった。嬉しくてたまらないのに、嬉しいという気持ちに嘘をつき、隠したくなった。わたしが嬉しがる資格はないと思ったからだ。おそるおそる手紙を受け取ると少し満足げな顔をしたふくろうが早く見るように急かした。

−久しぶりだな。そろそろ学年末試験が始まる頃だ。また駅で会えると嬉しい。−

内容は異なっていても同じ時期に同じ学年末試験に向けて勉強していることに、そして、手紙を無視したのにもかかわらず、再び手紙を送ってくれたシリウスにも、やはり嬉しさは隠しきれなくて思わずふくろうを抱きしめそうになったけれど逃げられた。いそいそ紙を取り出して返事を書こうとして思い止まった。もし駅で本当にシリウスと会えるのならそれと同時に姉とも会うことになるからだ。これ以上姉に嫌われたくも傷付けたくもなかった。そして、もし友人のいうとおりシリウスに恋していたとするなら、ひどく嫌な気持ちだと思った。どれだけ利己的で、自分勝手な感情なのだろうと思った。それでもわたしはシリウスに会いたくて、前の手紙について謝罪すると同時に−わたしもあなたに会いたい。−と書いたからだ。



20151008