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どこに行っても何をしても落ち着かず、シリウスは何度かわたしに何かあったのかと訊ねたけれど、答えられやしなかった。自分にも何故なのかわからなかったからだ。別れるときには「無理に付き合わせたことを詫びるべきかもしれないな」とさえ言われた。さっと血の気が引き、否定をしたけれど、相も変わらず理由は浮かばず、シリウスはそのまま去って行った。視界が曇り、わたしは自分が泣いていることに気付いた。止めることもできなかった。そのままバスに乗り、家に着いたわたしを見て、両親は驚いたけれど、「どうせ転びでもしたんだろう、お前は間が抜けているから」とお決まりの言葉を投げかけた。わたしは何も答えることなく、自分の部屋に籠った。

クリスマス休暇が明け、授業が始まってしばらく経ってもシリウスから手紙が来ることはなかった。わたしにはふくろうもいなければ、シリウスと同じ学校に通っているわけでもなかったからだ。シリウスがわたしと連絡を取ろうとしなければ、わたしにはどうすることもできなかったからだ。シリウスとわたしの間には大きな溝があることを痛感し、日に日にわたしの気分は落ちていった。見かねたのかもしれない友人が「一体何があったのかいい加減教えてよ」と言ってきた。何を教えればいいのかは相変わらずわからなかった。何があったのか、と問われても何もなかったのだ。


「嘘つき」

「嘘なんかついてないわ」

「だったらそんな落ち込んだ顔を止めて、今すぐに」

「そんな」

「クリスマス休暇に何かあったのはわかるよ」

「だから、何もないわ」

「………誰かとどこかに行ったんじゃないの?そうでもなければ会いでもしたはず」

「そ、れは、休暇中だし」

「すきな人ではないの?」

「………すきなひと?」

「恋しているんでしょ?」

「……………恋?」

「……違ったの?」

「ど、どうして、わたしが恋なんか」

「今年度が始まるときから様子がおかしいと思ってた」

「今年度………」

「違うならごめんなさい」

「……ねえ、恋って、素敵なものなんでしょう?」

「そうだと思うけど」

「そんな素敵なもの、わたしにできると思えないわ」

「…………どうして?」


だって、姉はとても可愛らしかった。素敵な手紙をいくつも送ってくるほどに姉は恋をしていたのだ。素敵な姉が素敵なことである恋をする理屈はわかっても、出来の悪いわたしが恋なんて素敵なことが出来るはずがなかった。そして友人が言及したのはシリウスのことだった。わたしがシリウスに恋をするだなんて、無理だということぐらいわたしにだってわかった。釣り合うはずがなかった。


「そう、素敵な人なんだ」

「そう、とても素敵な人なの」

「だったら恋をして当然じゃないの?」

「どうして?」

「だって、素敵な人に恋をするのは普通のことだよ」

「報われなくても?」

「そうだよ。それに、名前ってとてもかわいいよ」

「冗談はよして」

「どうしてそんなに自分を卑下するの?」

「だって、姉さんが」

「あなたはあなたでしょう。いつまで姉さんに付き従っているつもり?」

「……どういうこと?」

「姉さんと比べても仕方がないよ。どれだけ姉さんが出来る人なのかは知らないけれど、わたしはあなたが、名前が好きなの」

「……それは、あなたが姉さんを知らないから」

「そう、じゃあいつまでもうじうじしていればいいよ」


うじうじしているつもりはなかった。ただ事実を述べていただけだった。友人に突き放され、わたしはどうしていいのかわからなくなった。それから数日経ったとき、友人からも距離を置かれたままだったわたしに、また黒いふくろうがやってきた。クリスマス休暇以降忙しかったことと、あのとき様子がおかしかったことは大丈夫なのかということが書かれていた。シリウスは優しい人だった。本来ならあのとき呆れられても、必然だと思っていたのだ。だが、わたしにはただシリウスを労うことと、大丈夫だということしかできなかった。まるでつまらない手紙だということはわかっていたので、なかなかふくろうに渡すことが出来ないまま数日が過ぎた。しびれを切らしたふくろうは、わたしの手紙を持たないまま、シリウスのもとへ帰って行ってしまった。初めてシリウスに返事をしなかった。繋がりが途絶えたことに絶望した。シリウスについて知っていることなど数えるほどもなかったのに、ただ文通をしただけなのに、ただ二度会っただけの存在なのに、どうしてこうも絶望しているのかがわからなかった。どうしてもこの繋がりを留めておきたかった。タイミングよく我が家に訪れた姉のふくろうに、わたしはいてもたってもいられず、シリウスにもう一度ふくろうを飛ばしてほしいと頼んでくれという手紙を託した。姉からの返事は存外早く来た。

−マグルのくせに。−

姉の想い人は黒髪で灰色の目だったと、そしてシリウスは黒髪で灰色の目だったと、やっと愚かなわたしは気付いたのだった。



20150105