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あの休暇以降、姉からの手紙は激減した。ただ単に季節の折にカードが送られてくるだけになっていた。母には送ってきたのに、父にも送ってきたのに、わたしには送ってきてくれなかった。そして姉は初めてクリスマス休暇に帰ってこなかった。そのクリスマスカードにも、手書きで−素敵なクリスマスを。−と書かれているだけのものだった。もちろん、魔法界のカードなのでとても綺麗だったけれど、寂しさは拭えなかった。だからわたしから手紙を送るようにしたけれど、あまり返事は帰ってこなかった。

その一方でわたしのもとにはふくろうが定期的に来るようになっていた。真っ黒なふくろうで、ふくろうのなかでの美醜はわからないけれど、すっとすましていた。そのふくろうが来るたび、わたしはどきどきして胸が苦しくなった。なぜなら、シリウスからの手紙を持ってきてくれたからだ。なぜだろう、と思わなくはなかった。なぜなら、わたしは姉のように美しくも頭もよくないし、なによりマグルだからだ。彼が興味を持つはずなどなかった。そしてシリウスからの手紙は決して長くなかった。だんだん長くなってきてはいるけれど、それでもどこか遠いのだった。それでもわたしは嬉しくて、欠かさず手紙を返した。何度も思いを馳せた。何度も名前を呼んだ。何度も姿を思い出した。夜に光る星を見上げながら、あの人の目のようだと思ったりもした。そんなわたしを見て、「いつもよりぼんやりしているよ」と友人は笑った。別に気にならなかったけれど、周りから見てもシリウスに会ってからわたしは変わったのかもしれない。

そんな折、シリウスから手紙が来た。そのクリスマス休暇に会いたいというものだった。何故なのかはわからなかった、理由などひとことも添えていなかったからだ。その言葉を見た瞬間、心臓が止まるとはこのことだと知った。慌ててイエスの返事を書き、ふくろうに託した。またふくろうがやってくるまでの数日は気が気でなかった。わたしに不備でもあったのではないかと、わたしの言葉が悪かったのではないかと、シリウスが心を変えたのではないかと、不安は次々に浮かんで、朝も昼も夜も落ち着かなかったのだ。ふくろうが届けてくれた日には安心して眠ることが出来たのだけれど、シリウスが指定した日にちまでも眠れない日々が続いた。結局のところ、シリウスに会うまでは安心など出来やしなかったのだ。



「もう来ていたのか」

「その、不安だったから」

「ああ、そうか。ここまで来たことがないのか」

「……姉の付添いでしか来たことがないの」

「まぁ、マグルだしな。行こうぜ」


非常にあっさりとした再会だった。チャリング・クロス駅で待ち合わせたシリウスは前と特に変わった様子もなく、挨拶もそこそこに歩き出した。わたしが前日までどころか当日の朝まで何を着ればいいのか、どのように話せばいいのか、と気を揉んでいたことがいかに愚かであったかと知った。シリウスに聞こえないように、落ち着くために一息ついたわたしは、ショーウィンドウに映る自分の姿を見た。ダイアゴン横丁には数度しか来たことがなかった。それもわたしはついていくだけで、自分の意思で来たことはなかった。どう見ても、ただのマグルだった。目は落ち着かず定まらないし、不安そうな表情をしていた。シリウスが歩くスピードは速く、わたしはもう駆け足にまでなりながら後ろを追いかけたけれど、距離は縮まらなかった。寒い中、マフラーが暑いと感じるほどになっていた。


「おい」


急に振り向いたシリウスに心臓が止まるかと思った。伸びてきた手はわたしの頭を撫で、先ほどの距離とは全く異なる近さに息がつまった。


「言えよ」

「え……?」

「僕が歩くのが速いって感じていたなら、言えばいいだろう」


そう言ってわたしから目を逸らし、少し離れて、シリウスは歩き出した。わたしは離れたシリウスをぼんやり見つめてしまったあと、慌ててシリウスの後を追いかけた。シリウスが近付いてくれた後よりも、気遣ってくれたそのときの方が心臓が苦しかった。そして、そのときのシリウスの顔が見たくて仕方がなかったのだ。



20141209