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わたしはひどく出来の悪い人間だと思う。思うっていうのはそれだけで真実に成り得るからやめた方がいい、とかテレビに出てくるお偉い心理学者やら脳科学者やらが言っているけれど、事実を述べたまでだ。だったら“思う”という動詞を使うより、落ち込むけれど、「わたしはひどく出来の悪い人間だ」と言い切った方が良いのかもしれない。

なぜわたしがこんなことを思うかというと、姉がひどく出来の良すぎる人間だったからだ。小さい頃から姉と比べられて育ち、「お姉ちゃんみたいにがんばりなさい」と言われてきたわたしにとっては、至極当然のことだったからだ。成績も、運動も、美術も、演劇も、何でも出来る姉は自慢であることと同時に、わたしにとってはコンプレックスを植え付ける存在でもあったからだ。

だけど、姉はある日わたしに言った。

「わたしね、あなたのことがうらやましかったことがあるの」

そして姉は姉曰くわたしの美点をわたしが恥ずかしくなるくらい並べたてた。そしてそれらは自分では想像もできなかった点で、列挙することすら恥ずかしかった。うそ、とわたしはまず否定したけれど、姉は顔をしかめて言った。

「あなたは私の好意を受け入れないってこと?私がうそをつくような人間に見える?」

「で、でも、姉さんはわたしなんかよりずっと美人で、頭も良くて、何もかもわたしより優れていて……」

「お礼は言っておくけれど、それこそ嘘って言いたくなるわね。私はそんなにできた人間じゃないわ」

「嘘なんかじゃ」

「ほら、私と同じじゃない」

姉の言葉は友人にも言われたことだし、シリウスにも言われたことだった。友人に言われたときはなんだかんだと理由をつけて認められなかったことが、シリウスに言われただけで、姉に言われただけで受け入れてしまう自分にまた失望した。どれだけ友人に甘えていたのだと思った。けれど、友人は、

「何をいまさら」

と呆れたように言葉をかけてくれ、有り難くも交流が続いている。姉はまだ魔法学校に通っていて、月に数度は手紙が届く。そして、シリウスとは、


「こっちだ」


時々会う程度には交流が続いている。シリウスは学校を卒業してから少し忙しそうだ。わたしなんかに時間を使ってくれている、と思わなくもないけれど、シリウスとこうやって会うようになってからは、少しずつ前向きに物事を考えられるようになってきている。別に、自信があるわけではないけれど。出来る姉と出来ない妹、ということはまだ家族からも周囲の人間からも言われることはあるけれど。


「ごめんなさい、待たせて」

「いや、学校帰りだろ。気にするな」


そう言ってシリウスはわたしの手を包んだ。なぜか当たり前のように繋がれるようになった手に、未だに慣れることはない。わたしは何もできない人間で、姉のような出来た人間でもなく、他の人より劣る点ばかりだ。周りを見渡せば、羨ましそうにシリウスの顔とわたしを見比べる女の子たちの目線に落ち込むことも多々ある。


「どうした?」

「何でもない」


けれどその度シリウスの手を握り締めれば、握り返してくれるから、わたしは泣かずに済む。依存していると思われても仕方がないし、甘えていると思われても仕方がない。わたしはいつまでたってもないものねだりで、分不相応な願いを抱いている。それをかなえられているのかどうかはわからない。シリウスは言葉にしてくれはしないから。わたしも恐ろしくて聞けはしないから。あんなにやさしい言葉をくれたのはそう前のことでもないのに、もうすでにわたしにとっては過去で、いくら言葉にされたとしても、足りない。それはこうして会うようになっても変わらない。ただ、確実なことは、おそらく彼にとってわたしは無意味な存在ではないということと、わたしはどんどんシリウスにおぼれていっているということだ。恐れつつも、確実に、後には戻れなくなっていっている。



20160704