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声はずいぶん聞いていない。ただ姿を見かけることは何度かあって、会釈するだけの関係になってしまった。僕が生まれる5年前に彼女は生まれたけど、僕よりもずっと背は低くて、それでいて柔らかそうな身体をしているのは、服の上からでも、近くで見なくてもわかっていた。だけど、

後ろ姿でわかるなんて、重症だ。

部活の後、兄に連れられて自主練、なのかよくわからないけど、社会人チームの練習に参加した。そして兄の運転する車で家まで送ってもらっている。その最中、白いシャツと黒いスカートの後ろ姿が目に入った。パッと急に現れたように視界に入ってきて、目が離せない。


「あれ、名前?」


返事すらせずに窓の外を見つめ続けた。なんでこんな時間に外にいるんだとか、なんで1人なんだとか、いろいろ疑問が浮かんできたのは一瞬間があった後だった。


「なあ」

「……気付いてる」

「窓開けろよ、話し掛けろって」

「何で」

「1人じゃ危ないだろ、こんな時間に」


思っていたのは同じことでも、行動に移すかどうかは違う。だんだんとスピードが落ちていく中、悶々とどうやって話しかければいいのかを悩む。気付けば彼女の隣に横付けされ、機械音を立てて下りていく窓に目を丸くした彼女が僕を見た。


「……蛍?」


そういえば僕は蛍という名前だった、なんて妙な確信を得た。返事をせず見つめる。いつもより目鼻立ちがはっきりしているのは化粧のせいか、いつもより大人びて見えるのはスーツのせいか。彼女は僕の名前を呼んでいるのにこんなに遠くに感じる理由を無理矢理探した。


「久しぶり」

「あれ、明くん?」

「あぁ」

「久しぶりだね、帰ってきてたの?」

「いや、送り迎え」

「お疲れ様」

「乗れよ、送るから」

「いいよ、すぐそこだし」

「危ないから」

「そう?……ありがとう」


僕を間に挟んで会話をする2人には割り込めなかった。一旦会話は途切れ、窓が上がっていく。後ろのドアが開いて、バックミラーに彼女が映った。ライトのせいでさっきよりも彼女のことをはっきりと認識する。そのまま続けられていく会話で、今の彼女の生活の中に僕の姿は微塵もないことを、そしてただの世間話だとわかっていても、僕と彼女より兄と彼女の方が共通の話題が多くて話が盛り上がることを思い知らされる。聞きたくないけど聞きたくて、僕は目を閉じて彼女の声だけに耳を澄ました。歩けば少しかかるけど、車であればそうでもない距離だった。すぐ着いてしまい、慣れた手つきで兄は車庫入れする。免許すら持ってない自分は、送ることすら出来ない。


「ありがとう、助かった」


その言葉すら貰えない。さっさとこの場から逃げ出したくて、少し荒っぽくシートベルトを外す。ドアを開ければ秋なのにまだじめっとしていた。彼女が開けようとするドアを開ければ、少し驚いた表情をした。そしてはにかんで礼をくれた。それだけで少し、なんとなくだけど、浮上した感情に舌打ちをしたくなった。


「送ってこい」

「……は?」

「危ないから、家まで名前を送ってこいよ」

「い、いい、大丈夫、すぐそこだし」


兄はいつの間にか車からおりていて、僕をまっすぐ見て言った。兄の意図が読めないのも嫌だけど、何より彼女が僕を拒否したのに苛立った。何で僕が送るのは駄目なんだ、兄には頷いたくせに。


「いいから、行くよ」




20150827