掻い潜らせた冷たい痛みに、心臓が欲しいよ、と笑った。その古臭くて、黴の生えてきそうな微笑みは、私を酷く痛ませるから、道化でも構わないと巣食ったのに、さらりと交わして宙を舞った。
彼は言うのだ。ハサミをぶら下げて、ちっちゃなちっちゃなその歪みこそが心臓には相応しいと。無論、私は反論した。余りにも安っぽく、錆び付いて音の響かないそれは紙の切れないハサミのようだと。そうしたならば、彼は何と言ったと思うか。
言葉は拙い。繕う事に身を切り刻まれたパントマイムは只の道化にすぎん、口では数言えど、貴様のような人間らしい人間を演じようとする人間によく似た心の塊は、何処へゆこうと何を仕出かそうともただの道化に過ぎぬのだと、そう言ったのだ。さも其れが可笑いと言わんばかりに息に鼻を膨れ上がらせて、腹を抱え、笑い転げたのだ。
その瞬間、私は思った。これか?これなのか、これこそが、、、いや解らない。解りたくもない。それこそが彼の思惑だったのだと気付いていたのだとしてもこれ以上考える気になどなれなかった。

心臓が冷たい肌に夢を擦り寄せて、しくしくと泣く。その泣き声に合わせて踊っている、女がひとり。彼女は死することすら忘れたように、踊り続けている。その姿はうらぶれた娼婦のように酷く滑稽であり、(彼女のしくしくという泣き声はまるで発情期のもと、キャンキャン喚く犬の喘ぎ声のようだったと、今でも覚えている。)この世に人間をこれ程までに愉快な気持ちにさせた道化など存在していないのではないかと思わせるような踊りだったという。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -