「お嬢様、紅茶をお入れ致しましょうか?」

項垂れるようにぼんやりと窓を眺める私に、彼は余りにも優しく、過保護に言った。黒い髪が太陽の光を吸い込んで、いつもより彼の笑顔が柔らかい。

「うん。お願い。アールグレイがいいな。」

目を合わせることなく、窓を見つめたまま小さく呟くと、掛け直した椅子がキィと音を立てて軋んだ。


「畏まりました。」

彼は一瞬だけ目を細めて、優しく微笑むと元の、無表情と呼ぶに相応しいまるで人形のような感情の読み取れないポーカーフェイスに戻り、手際よくティーカップに紅茶を注いだ。

部屋中にアールグレイ独特の薫りが立ち込める。何とも言い表しづらいこの薫りに私は、思わず彼の方へ振り向いた。

「良い薫り。あきらとおんなじ優しい匂いがする。」

ふふっと微笑む私に彼は手を止めて、顔を上げた。

「私と同じ、、?ふっ、お嬢様は面白いことをおっしゃいますね。」

あぁ、まただと思った。その灰色の瞳はいつも真っ直ぐ、私だけを見てくれる。光りの灯った優しい、灰色の瞳はいつも私だけを、灯してくれる。私は彼の、あきらの、そんな真っ直ぐな瞳が大好きだ。

「お嬢様、紅茶が入りましたよ。」


そんな私の気持ちになどまるで気付いていないような素振りで、ティーカップを手渡す。
だから私も、何も気付いていないような素振りでティーカップを受け取る。

「ありがとう。雨が降ってきたわね。」


窓の外から聴こえるポツポツという小気味よい音に耳を澄ましながら、紅茶を飲む。

今日も何も変わらない、私もあきらも、今日も何も変わらない。

「そうですね。でも、夕立ちですから、きっとすぐに止むと思いますよ。」


彼は窓に一瞬、目を向けたあと、私に向かってニッコリと微笑んだ。














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