恋愛攻略法


私はこの状況に怪訝な顔をせざるを得ない。
昼休み、自転車部マネージャーの私は荒北、新開、東堂と屋上でお昼を食べていた。
そこで私と同じような顔をしている東堂。
クスクス笑っている新開。

「テメェあとでぶっ飛ばしてやんヨ!」

「こンの…くそアマ…」

「るっせ!ボケナス!」

荒北が持っているのは片手にメロンパン、もう片手にポータブルゲーム機。
怒りにゲーム機を持つ手がカタカタ震え、画面に向かってガルガルと吠えている。
荒北の耳にはイヤホンがされていて、ゲーム音は聞こえない。

「…ねぇ、荒北って何やってるの?」

ゲーム機と睨めっこをしている張本人はそっちに夢中だし、私と同じように怪訝な顔をしている東堂は何も知らなそう。
と、いうことで新開のそばで耳打ちする。

「恋愛シュミレーションゲームだ」

「「はぁ!?」」

嫌でも東堂と声が被る。

「あの恋愛のれの字もない荒北が恋愛ゲームだと!?」

「信じられない…」

私と東堂は顔を見合わせてから、再び荒北に目を向ける。
荒北はキッと画面を睨みつけながら地団駄を踏んでいた。
と思えば頭を掻きむしりながら、今にもゲーム機を投げ出しそうにもしている。

私は新開を疑うように見た。

「…じゃあ何、荒北はその女の子相手にあんな暴言吐いてるわけ?」

「それは同感だ。二次元とはいえ、女子に対する物言いではないな」

だからあいつはモテんのだ、と何か納得したように東堂が言う。

「これさ」

新開が持っていたゲームのパッケージを見る。
いろいろな外見、性格の女の子が5人。

「ていうかさ、なんで荒北がそんなのやってるの?とうとうオタクになっちゃった?」

「それがさ、」

事情を知っている新開が話し始める。
要するに、福富が新開、荒北、真波を呼んで次のテストで1番点数の低い人物が罰を受けるというものだったらしい。
元はといえば、赤点回避のための策略だそうだ。
そのテストで最下位が荒北。
罰の内容を決めたのは新開。
荒北はやらないの一点張りだったそうだが、福富のやれ、の一言でやっているらしい。
1人でも攻略すれば終了、という約束で。

「だァァァ!またバッドエンドじゃねェか!オレにどーしろっつーんだヨ!」

荒北は急に立ち上がって両手で頭を掻きまくっている。
東堂はバッドエンドだと知って大笑いしていた。

「仕方ないな、必殺技を伝授するか」

新開がゲームのパッケージを持って荒北の方に行く。
私は対戦ゲームじゃないのに必殺技なんてあるのかという疑問が浮かんだ。

それから新開は荒北と肩を組んでゲームのパッケージを見ながら何かを話していた。
2人がそのパッケージとこちらを交互にチラチラ見てるのはどういうことなのか。
私は放置された東堂とその状態を眺めていた。
あ、荒北がちょっと顔を赤くしてる、レア顔だ、なんて思いながらお弁当に箸をつけた。



▼▼▼

その数日後、部活が終わって誰もいなくなった部室の戸締りや用具の整理整頓を完璧にやって出る。
最後に鍵を閉めるために鍵穴に挿そうとしたら、急に後ろから「オィ名前」なんて声をかけられるから鍵を落としてしまった。

「…びっ、くりしたぁ。荒北か」

私は落ちた鍵を拾って、今度こそ部室の扉を閉めた。

「…おまえ、休みの日にデート行くなら水族館、ショッピング、遊園地の中でどこ行きてェ」

「…は?何、その質問」

「いいからァ」

荒北からデートなんて言葉が出てくるのがちょっと違和感があったけど、それは失礼なのかもしれない。
荒北だって普通の男子高校生だ、たぶん。
じゃあこの質問はなんだ。
まさか私をデートに誘う、とか?
いやいや、ないな。
…でももしかして…?
荒北なんかに変に緊張して鍵を握りしめた。

「…す、水族館、かな」

「フーン、わーった」

荒北はそれだけ言うと、踵を返していってしまう。

「…は?」

特にデートに誘われるわけでもなく、ただ荒北の背中を見送って終了した。


荒北の質問の意図がわかったのは、翌日のお昼。
いつもの場所、いつものメンバー。

「…まだやってるんだ、あれ」

相変わらず荒北はゲーム機と睨めっこだ。

「次はうまくいうと思うんだけどな」

何を持ってそう言うのか、新開は少し自信があるようだ。
例の必殺技とやらが効いてるんだろうか。

「…なァ名前、水族館で見んならイルカのショー、熱帯魚、サメ、どれだ」

私は荒北から昨日のような3択を迫られる。

「…イルカ」

「あー、イルカな」

ちょっと画面を覗いてみると、同じ選択肢が映っている。

そういうことか。
自分じゃできないから女の意見を取り入れてるのか。
私のドキマギを返せこのやろー。
やっぱり荒北は荒北か。
これが新開の言う必殺技なのかは知らないけど。

「って、私の意見聞いたってその子じゃないんだから攻略できるかわかんないじゃん。バッドエンドでも責任取れないからね」

「それがそうでもないんだ」

前に見たゲームのパッケージを再び見せてくる。

「靖友のターゲットはこの子。誰かに似てないか?」

新開が言うと、東堂も興味を持ったのか私と同じようにパッケージを覗き込む。
東堂が目を凝らして見てから私を見る。

「名前に似ているではないか!!」

「えー似てないよ」

大声を出す東堂とは反対に冷静に否定する私。

「いーや、似ているな!」

そんなに言われると似てるのかもという気になってくる。
自分じゃわからないけど。

「でも性格が似てるとは限らないじゃん」

「いや、似ているのだろう。なぜなら今まで口悪く言ってた男が静かにゲームをしているではないか」

「それ、この子が私に似てるっていうのと関係あるの?」

確かに前は暴言吐いていた荒北が、今は静かに画面に向き合っている。
表情も仏頂面ではあるが、睨みをきかせている感じはない。

荒北から視線を戻すと、新開と東堂が私をじっと見ていた。

「え…何?」

「名前よ、本当にわからんのか」

「いや、だから何が?」

「靖友も不憫だな」

「何それ」

「結構わかりやすいがな、荒北は」

「だから何が!?」

2人で何か納得してるけど、私にだけ教えてくれないなんて酷くない?
しばらくゲームをやる荒北を眺めていたけど、結局答えはわからなかった。


荒北が新開、東堂曰く私似の子を攻略したと聞いたのはその数日後。
画面はエンディングを迎えていた。
その画面をなぜか4人で見守っている。

女の子が顔を赤らめながら、主人公に告白するシーン。
なんか私じゃないのに、似てる似てる言うから私が荒北に告白しているみたいな感覚になってきた。

「う…なんか恥ずかしいんだけど」

「黙って見てろっつのォ」

2人はハッピーエンドで終わり、音楽が流れてスタッフロールがそれに乗って表示された。

「新開ィ、これでいいんだろ」

荒北はポイと新開にゲーム機を投げ返した。

「どうだった、この子」

「あーいいんじゃねェ?こん中じゃ1番タイプかもなァ」

まるで私に言ってるように錯覚する。
いや、落ち着け。
ゲームの話だ。
たかが荒北にそんなわけない。

胸元をぎゅっと握りしめて心臓を落ち着かそうとしているのに、顔はどんどん赤くなるばかりだ。
それに気づいた荒北が不審そうに私を見ている。

「……ッ、新開テメェ」

「くく、ああ、名前に言っちまった」

新開が笑いを含んだ声で言うと、荒北は私以上に一気に真っ赤になる。
それを隠そうと頭を掻いたり顔を覆う仕草は荒北の癖だ。

「くそ、ボケナスが」

「じゃ、オレたちは邪魔だから退散するな」

新開が東堂を連れて屋上から出ていく。

「えっちょっと待って!私も、」

「チッ、どこ行くんだオラ」

新開と東堂を追いかけようと思ったのに、荒北に手を掴まれて阻止されてしまった。
そのまま私の手を離してくれない。
荒北なんか意識したことなかったのに。
なんなのよ、これ。
私の心臓が異常な速さを奏でる。

「あ…の、荒北?」

荒北との沈黙に耐えかねた私が声をかけた。

「あ゛?んだよ」

腕を掴みながらチラチラと横目に私を見る。
これは何か言いたそうにしている荒北だ。

「いや…それはこっちの台詞なんだけど…」

「アー…だからァ」

言いづらそうに私の手を掴んでいる反対の手で自分の頬を掻いていた。
それに油断していると、私の手をそのまま引っ張り、気づけば荒北の腕の中だった。

「…好きだっつーことだろ。バァカチャンが」

耳元でそう囁くのが聞こえた。
バカとはなんだと思ったが、荒北の心臓の音が大きいし速いしで照れ隠しの一種なのだと思うと、なんだか可愛く思えてくる。

「…次の休み、水族館連れてって」

私は荒北の胸元のシャツをきゅっと握る。

「ヘイヘイ」

「イルカのショー見るんだからね」

「わかってんヨ」




▼▼▼

後日談。
荒北と付き合って1ヶ月が過ぎた頃。

「なァ新開、あのゲーム、エロゲーバージョンとかねーの?」

私が廊下にいる荒北を発見したときだ、新開にそんなことを言ってるのを聞いたのは。

「どうしたんだ、そんなにあれにハマったのか?…って靖友後ろ」

新開が私に気づいて指をさすと、荒北もそれに振り返って私を見るが、そのまま新開との話を続けていた。

「彼女いるんだし、靖友はそんなの必要ないだろ」

「あーそれがさァ」

「ッ、荒北のバカー!私よりエロゲーの方がいいのか!見損なったわ!」

「ハッ、じゃぁなにィ?」

荒北が口角を上げてグンと私との距離を詰めてくる。

「名前のこと喰っちまっていいってことォ?」

「なっ…!」

エロゲーされるならそれでもいいと思ってしまうのは、私も荒北に惚れているということなんだろうな。



End



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