無自覚に愛の告白
「ねえ、最近やけに岩ちゃんと仲良くなーい?」
牛乳パン片手に紙パックの飲み物を尖らせた口が啜っていた。その度に半透明なストローの中でジュースの色が行き来していた。
「もしかして…付き合ってたりすんの?」
探るような目線が私を突き刺す。それでいてとても不機嫌そう。私にはじめを盗られたとか思ってるんだろうか。
徹はすぐに顔に出るからわかりやすいっちゃわからやすい。それが時々面倒臭かったりするけど、2年以上経つともう慣れた。
「………うん、そうだけど?」
「はっ!?えっマジで言ってんの!?俺なんも聞いてないんだけど!?」
徹が驚いた拍子に両手を握りつぶすもんだから、牛乳パンは潰れ、紙パックから私の机にジュースが飛び散った。
イラッとしながらティッシュを取り出してそれを拭く。
「徹に言ってないだけだよ」
「い、いやそりゃあさー、岩ちゃんはかっこいいよ?でももっとかっこいい男がいるじゃん!」
「へー、それなら紹介してほしいよ」
私の棒読みにふんぞり返る徹。
自分の方がかっこいいって言いたいのか、はじめに先越されたのが嫌なのか。
まあ徹なんてこんなもんだろう。
「岩ちゃんのどこがよかったの!」
「はあ?んーー……頼りになるし」
「俺だっていざとなれば頼りになるもんね!」
「いざとなったらって……」
てかなんのアピールだよ。
そんなにはじめが気になるのか。普段は仲良いくせに。って言ったらはじめは否定するだろうけど。
「それにすごく男らしいし絶対一途だし結婚するならああいうタイプがいいじゃん」
「俺も男らしくて一途、」
「はい嘘ー。女子に騒がれてヘラヘラしてるくせに。徹は絶対浮気するタイプー」
私がそう言うと徹は大人しくなった。
図星をつかれて何も言えないかな?
徹を見上げると、怒ってるのかいつもの優男顔はどこへやら。百獣の王に捕らわれたうさぎの気分だった。
さすがに言いすぎた。ごめん。
って口を開きたいのに上手くいかない。
「ぁ…………」
やっと口が開いたと思ったら、徹が大袈裟なくらい深呼吸を繰り返していた。
そして私の机に思いっきり両手をつく。その衝撃で徹が持っていた牛乳パンと紙パックは無残に落下。
でも私にもそれを拾う余裕なんてなくて、怒られるのを承知でぎゅっと両目をキツく閉じる。
「あのねぇ……俺だって好きな子はすっごく大事にするし、名前が他の女子構うなって言うならそうするし嫌な思いはぜーったいさせない!」
「へ、………うん?」
「それにね!結婚したら岩ちゃんより幸せにする自信あるし、毎年結婚記念日にすっげーお祝いしてやるかんね」
言いたいことを言い終えたのか、そこで言葉が途切れた。
と思ったら「第一、岩泉名前より及川名前の方がいい名前じゃん」とボソッと吐き出す徹。
んん?なんか雲行きが怪しくないですか?
はじめに対して張り合ってるのかと思ったけど、これじゃあさ、
私は恐る恐る挙手する。
「……あ、の……及川さん?ちょっといいですか?」
「何」
「なんで私の名前が出てくるのかな…って」
カッとすぐ目の前で赤くなる徹の頬。腕でそれを隠しながら後退る。
こんな反応されたらさすがにわかるって。そこまで鈍感じゃないし。
なんか私まで恥ずかしくなってきた。
「いやまってこっち見ないで…俺今……あーーー」
両手で顔を押さえる徹に、女子か!って突っ込みたくなる。おかげで私は少し落ち着いたけど。
そんな徹を数十秒見たあと、やっと両手を外した。
さっきほど真っ赤ではなかったけど、まだ僅かに赤みが残っていた。
自分の失態なのにムスッとした表情で私を見たあと、教室から出ていこうとする徹。
それを目で追うと、徹の足は数歩で止まり腰を捻って振り返ると私を指さす。
「この俺がどんだけ片想いしてると思ってんの!?」
「……え、知らない…けど」
「2年以上!」
「はあ!?」
「だから諦めるつもりないし!これから覚えとけ。あとちょっと岩ちゃんのとこ行ってくる」
「えっ!?ちょっとまっ…!」
はじめに何言うつもりなのかわからないけど、徹はそのまま行ってしまった。
及川徹は面倒臭い。
だけどからかうとちょっと面白い。
はじめと付き合ってるって言ったらどんな顔するかなってからかったつもりだったんだけど……言いそびれちゃったなんて言えない。
End
「岩ちゃん!」
「あー?」
「岩ちゃんと名前の交際は認めません」
「…来て早々意味わかんねぇこと言ってんなよ」
「絶対奪っちゃうから覚悟しといてね☆」
「いやだから…って聞けよクソ川!」
お題『無自覚に愛の告白』