風邪
うぅー... なんか、だるいな。鼻水も止まらない。
いつも丈夫なこの僕が風邪なんて、珍しい。
さっさと誰かにうつして、治すか!
「さっきから何故こっちを見てるの?」
おっと、僕としたことが風邪のせいでいつもの何倍もの熱視線を彼女に向けていたようだ。これじゃ周りにバレてしまうな。
それにしても今日もまたいつもの3人と一緒なのか、我が姫は!まったく、彼女は自分の魅力に気付いてなさ過ぎて困る。
「おや、いつも一緒だな君たち!あいにく、僕のような男前は君には興味ないんだが...少し自意識過剰なんじゃないか?」
「黙れ、マルフォイ!お前こそ自惚れてるじゃないか!ハーマイオニーは、自意識過剰じゃないぞ!!」
うるさいなあ、赤毛のくせに。グレンジャーに好意を持っているのが、バレバレだ。
「いいのよ、言わせておけば。行きましょ、授業に遅れちゃう」
僕とすれ違い際に、少し哀しそうな顔で一瞬、目があった。また、言い過ぎただろうか。
げほげほっ。やばいな、酷くなってきた。
大広間でも、合同授業でもグレンジャーは少し哀しそうな顔で僕に視線を向けてきた。これは早く、謝らなくては。
その日の夕暮れ、図書館のいつもの奥まった場所へ呼び出すことにした。やはり彼女はまだ、哀しそうな顔をしている。風邪をうつさないよう、普段よりも少し距離をとって話しかけた。
「やぁ、グレンジャー」
「マルフォイ...」
「今朝はすまなかった。少し言い過ぎた」
思いきって謝罪の言葉を口にして見た。
「そんなのいつものことじゃない。別に気にしてないわ」
グレンジャーの顔色は、変わらない。
「では、どうしてそんなに哀しそうな顔をしているんだ?」
僕の言葉のせいじゃないのか?
「マルフォイ、あなた...体調悪いでしょう?」
「は?!分かるのか?」
「そりゃあ、いつもより顔が赤くて、目がふにゃっとしてて、呼吸をすることさえ辛そうだったから」
「流石だな...でも何故、哀しそうなんだ?」
「あなたが、私に風邪だって言ってくれなかったんですもの」
そうだったのか...。
「君に心配かけたくなかったんだ」
「そんなことされたら余計心配になるわよ」
蜂蜜色の瞳が涙をいっぱい溜めて、僕を見上げる。
か、可愛い...。
僕はこの愛しい恋人を抱きしめたくなったが、こんな酷い風邪をうつすわけにはいかないと、どうにか踏み止まった。
なのに、グレンジャーは風邪など構わず僕を抱きしめてきた。
「グ、グレンジャー!風邪がうつるから、離れろ!!」
「いやよ!それに誰かにうつした方が風邪って早く治るのよ?」
得意そうに言うと、彼女は僕をさらにぎゅうぎゅう強く抱きしめた。
あーあ、これではふたりして明日の授業には、出れないな。
「グレンジャー、ありがとな」
END
( ちょっとマルフォイ 何処触ってるのよ! )
( あっ、手が勝手にっ )
誰かにうつすと治るのは、おそらく迷信。(笑)
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