今日くらい、('16ハーマイオニー誕)

「きゃっ」
夕食を終え、獅子寮の皆が騒いでいる大広間を出て歩き始めた所で、マルフォイとぶつかってしまった。今日は私の誕生日で、今日くらい朝から心安らかに気の置けない友人と楽しく過ごしたい、と思っていたのに。さぁ、彼はどんな言葉で難癖をつけてくるのか。

「誕生日なんだってな、おめでとう」
突然の邂逅に、彼の口を出たのは、意外にも今日何度めかの祝いの言葉だった。
「いいだろ、僕だって祝いの挨拶くらいする」
私は唖然として言葉が出ず、その沈黙に、マルフォイがいつもより饒舌に言葉をつづける。
「父上や母上からは何か届いたのか?」
「あっ、そうね届いたわ。向こうでベストセラーの書籍が何冊か...」
まずい、どうせ馬鹿にされるだけなのに私は何をべらべらと話しているのか。
「そうか、まぁ自分の故郷のことを把握するのは大切だな」
この人、何を言っているのか分かっているのだろうか。マグル嫌いで純血主義のマルフォイが、マグルの文化を肯定するなんて。私の目の前にいるのは、本物のマルフォイなのか存在さえ疑ってしまう程に思考が混乱してきた。

「あなた、マグルに興味でも湧いたの?」
「僕は人間のアイデンティティの話をしているんだ。君にとってその一つがマグル文化だろう?」
「それも...そう、だけど」
妙に納得はいかないが、「マグル生まれの魔女」というのが「私」を作るものの一つであるのは事実だ。でも何故それをマルフォイが言うのか。いつもなら「マグル」という単語を口にするのも嫌がりそうなのに。

「ホグワーツに入学して以来、関わりがを持たなかったマグル世界出身の魔法使いに、君みたいな優秀な人物がいるというのは、僕の中で革新的だったんだ。父上にはチクチク言われるけどな」
「魔法族の血統なんて、結局は何の足しにもならないんだ。血に頼るような馬鹿馬鹿しい人生にはしたくない。それを教わったんだ、グレンジャーから」
少なくともそう思っている、そう彼はつづけた。
「習い事ばかりで、誰かと競って負けたくないなんて初めてだった。君がいることで僕自身も成長したらしい、悔しいけどな」

「つまり何が言いたいのよ?」
「つまり、だ。つまり君のおかげで僕も頑張れているんだ」
「...!?」

「だから」とマルフォイは手を差し出した。
「君と出会えてよかった、ほんの少しだけ、そう思う事もある」
「その割に何処までも歯切れ悪いわね」

差し出された手を無意識に握ると、マルフォイは口の端にちょっとだけ笑みを表した。


「おーいハーマイオニー、どうしたの…おい!マルフォイ!ハーマイオニーに何をしてる!!」

大広間の扉付近からハリーの声が聞こえる。その瞬間握っていた手をどちらからともなく離し、彼はいつもの嫌味な笑みに戻っていた。
「いつまでも騒いでいると、明日朝イチの授業に獅子寮の奴ら全員遅刻するぞ」
そう言ってローブを翻し、マルフォイは寮へ戻っていった。
「ハーマイオニー!」
「何でもないわ、大丈夫よ。戻りましょう」
眉を吊り上げたハリーを宥めて、大広間へ戻る私は、先程の彼の小さな笑みを思い出していた。

END


翌日
( 薔薇、だね )
( 薔薇ね、 )
( だっ誰から!? )
H→H→R


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