つまらない誕生日('16 ドラコ誕)

教卓で煮える鍋の湯気をぼんやりと眺め、隣で騒ぐパンジーの声を遠くで聞き流しながら、僕の頭には唐突に疑問が浮かんできた。
今日は僕の誕生日なのに、彼女は何をしてるんだ?
思えば朝から彼女の顔を一度も見ていない。今日は珍しく獅子寮との合同授業が変更で別の寮になったし、彼女自身も全ての教科をとっているようだから忙しくて、最近廊下ですれ違う事も減ってしまった。その分、他の生徒より図書館に籠って羊皮紙にかじりついている姿をよく見るようになり、たまに見かけても疲れて眠っているか、膨大な資料とにらめっこしている事が多かった。(ここまで振り返ると僕は彼女のストーカーか、という自己完結に落ち着くわけだが、勿論絶対に違う)
そんな彼女を見ていて「全ての教科をとるなんて強行をしていて、体調は大丈夫なのか」?と前に聞いてみたことがある。彼女は「学べる機会がある内は学べるだけ学んでおきたいし、知識をつけることは何より私の歓びなの。」と答え、微笑んでいた。そんな笑顔にも魅力を感じてしまい、答えになっていない答えに僕は何も言えなかった。
さすがに今日は会いに来るだろう。今日は僕の誕生日なのだ。ホグワーツに入学してからは家族が一緒に祝うことはなくなったが、毎年大きなプレゼントの包みが大広間を舞っている。
彼女と気持ちが通じ合うようになってからは、特別な日には互いにプレゼントを送ったり、同じ時間を共有するようになった。その前提は全て秘密裏ではあったが、両親のプレゼントがどんなに豪勢であろうが彼女からのプレゼントには到底敵うものはなかった。
このままだと自分の思考の卑しさに反吐が出そうだ。
いつの間にやら終わっていた魔法薬学の教科書を抱え、地下の教室から出ると目前にハーマイオニー・グレンジャーがまっすぐ僕を見据えて立っていた。
「ちょっといいかしら?」
僕を見て言ったであろうその言葉は、周りの蛇寮生が彼女を誹謗する声にかき消される。
「なんだい、こんな所に獅子寮のお姫さまがいるじゃないか。」
いつもの上辺の仮面を被りパンジーの後追いも耳に入れず彼女に近づくと、他の蛇寮生は地下からの階段を登っていく。そんなクラスメイト達を横目で見つつ、僕は口角が緩んでいくのを感じていた。
「あのね、今日はあなたの誕生日でしょう?どうしても顔を見て言いたくて…」
緩みきろうとしている口を閉じ、彼女を見つめる。
「Happy Birthday!!あなたに出会えて良かったわ」
「…ありがとう、ハーマイオニー」
陽だまりの匂いがする彼女の髪に手をまわして抱きしめる。
あぁ、今日は僕の最高な誕生日だ。
地下の暗くひんやりとした空気が柔らかくなるのを感じていた。


END


( 寂しかったよ君の顔を見れなくて )
( 私このあともう授業ないの )
( じゃあ今からデートでもどうだい、Ms.グレンジャー? )
( 勿論よ、Mr.マルフォイ! )



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