すきなひと


「父上、お風呂ご一緒してもいいですか?」

この冬、ホグワーツに入学した息子が帰省した。
あの、世紀の決戦から早20年近く経ち、僕は父上や親族の望み通り純血の娘を妻に迎えた。

「あぁ、わかった」

「わーい!じゃ、先に行ってますね!」





「で、何かあるのか?」

「えっ!?なっなななんで!?」

「小さい頃同じようなことをしたんだ。だからお前も同じかと思ってな」

「えへへ...。実は、好きな子ができたんだ」

僕の息子が、もうそんな歳か。

「へえ...。それはどんな女の子なんだ?」

「可愛い子だよ!頭がよくて、

―ふむふむ。

しっかりしてて、

――ほう。

いつも礼儀正しくて誰にでも優しいんだ!」

「...もしかして髪が豊かで、蜂蜜色の瞳をした女の子かい?」

頭の隅に封をして閉じ込めたはずの淡い想いが脳裏に浮かぶ。

「父上、すごいね!なんで分かったのー?」

「いっいや、なんとなくだ!」

「それで、その子の名は?」

「ローズ・ ウィーズリーだよ」

「...そうか、ウィーズリーか」

不思議なものだな、グレンジャー。人目を盗んで、君を想っていた僕の子がウィーズリーと君の子に惹かれているらしい。

「父上?どうかしたの?」

「...ホグワーツにいた頃を思い出していた」

「あ!そうだ!」

「ん?」

「父上の初恋のはなし、聞きたい!」

「...!?は、初恋?」

「うん、初恋!したことあるよね?父上、かっこいいからモテモテでしょ?」

「う...うむ。まぁ、な」

「話して!」

「もう過去の話だ、わすれたよ」

「えー?」

話したらきっと、疼いてしまう。あの勇敢で、高潔な彼女への気持ちが。

「う〜...。じゃあ、初恋のひとは?それは覚えてるでしょ?」

「お前と同じ様な人を好きになったよ。髪が豊かで可愛らしい子だ」

「へえ〜?」

「優秀で優しく、いい魔女だった。己の魅力に無頓着で皆に好かれていた」

あの笑顔に、何度救われたことか。

「父上...。そのひとのこと、まだ好き?」

「...そんな訳、無いだろう」

「...そっか」

「この話は、二人だけの秘密だ。母上が悲しむからな?」

「はぁーい」

「お前は、精一杯やりなさい。今、この時代は自由だ。血も人種も関係ない。ホグワーツを出てからでは出来ないこともある」

「え?父上?」

「少し長湯をしたな、先に出るぞ」

そうだ、ホグワーツでの7年は短く、卒業後の人生は長い。お前は、悔いのないように過ごして欲しい。それが、父の願いだ。

いつかハーマイオニーとは、息子たちの挙式で顔を見ることもあるかもしれない。ちゃんと恥ずかしくないような姿を見せないとあいつらにも笑われるな。
その日を夢見て、僕はふたたび頭の隅にあの日々の想いを封じ込めた。

END



ほんのり、ドラハー仕様。


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