茶髪と黒髪の人は、アタシの名前を知っていた。 どうして名前を知っているの? どうして二人を見ると懐かしいと感じるの? どうして二人を愛しいと思うの? どうしてアタシは、涙を流しているの? たくさんの疑問がアタシの頭の中を飛び交う。 一生懸命、頭の中の記憶を探っても、アタシの記憶の中に二人はいない。 なのに二人はアタシの名前を知っていて、今にも泣きそうな顔をしている。 「あなたたちは……痛ッ」 「「光理!?」」 いきなり、激しい頭痛に襲われた。 頭を鈍器で殴られてるかのような痛みで、さっきとは違う意味で涙が流れた。 まるで何かを思い出すのを拒絶しているかのよう。 思い出しちゃいけないと警告するかのように、体が拒絶している。 「 光理 」 頭の中で、アタシの名前を呼ぶ声が聞こえた。 でも名前を呼ぶ声は一人じゃなくて、たくさんの声だった。 老若男女問わず、どれも優しそうにアタシの呼んでいた。 「 光理の声は綺麗だね 」 「 彼が僕以外の人間に懐くなんてこと滅多にないよ 」 ふいに、目の前にいる茶髪と黒髪の人の声が聞こえた。 でも今より少し高くて子どものような声だった。 アタシはあなたたちのことが知りたいの。 あなたたちは、いったい誰なの? 「 オレの名前は“ ” 」 「 僕は“ ” 」 頭の中で問いかければ返事は返ってきたけど、二人の名前を聞き取ることは出来なかった。 聞き取れなかったというよりは、聞き取らせてくれなかったという感じだった。 ピリリリ、とポケットに入れてる伝令神機が鳴り出した。 その数秒後には少し遠くの方から爆発音が聞こえてきた。 痛む頭を片手で押さえて、もう片方の手でポケットから伝令神機を出した。 画面を確認すると、すぐ近くに数十体もの虚が現れていた。 「…っ、危険だから此処にいて」 それだけ言うと、アタシは近くの窓から外に飛び出した。 茶髪と黒髪のアタシの名前を呼ぶ声が聞こえたけど、今は虚の方が優先しないといけない。 アタシは未だに痛む頭を片手で押さえたまま、爆発が起こった場所に向かった。 涙の理由は、 (誰でもいいから) (私に教えてください) PREV | TOP | NEXT |