吹雪と春奈

※オチなし





通り過ぎる人達を横目で見ながら歩いている速度をさらに上げる。ただ単に寒くて、外よりマシな家に帰りたかっただけだ。この寒い北の地、北海道で生まれ育ったはずなのにいまだにこの芯の冷えるような寒さには慣れない。
家についたらすぐにコートとマフラーをひっぺがして毛布で自分の体を包んでガダガダとふるえた。ストーブのスイッチを入れてもすぐにはつかないから、僕はこの待っている間が嫌いだ。
そしてストーブが無事点火し、まさにとけてしまうような感覚を味わった。硬くなった身体が徐々にゆるんでいく。
窓の外を見るともう薄暗くなっていて少し気味が悪いような気がした。昔のとても怖いホラー映画に影響されたんだろう。その映画では後ろを振り向くとぼんやりと人影らしき人が立っているのだがそれがなんとも不気味だった。
なつかしいなぁ、あの頃は夜中になると後ろに誰かいるんじゃないかって思ってしまって泣いていたなぁ。今の僕はさすがにそんな物理法則で証明されていないものを信じていないから別に後ろを振り向くのは怖くないもんね、と少し強がりで思った。
僕は目をこすって開いたり閉じたりした。そしてもう一度目をこすった。
「きゃあああああああ!!」
僕はなんとも情けない叫び声を出してその場にあったリモコンを手に持ちブンブンと振り回して悪霊退散と何度も唱えた。僕が振り向いた先には青白い女の人が立っていたのだ。
「…………ふぶきさん……。どうしたんですか、私ですよ…?」
「……あ」
僕はぼとりと手に持ったリモコンを落としてしまった。僕の目の前の女性は口を真一文字に閉じて驚いているというより怒っているような表情をしている。僕は、寒いけどどうぞ入って、とその女性を招きいれた。
やかんに水をいれて火にかけている間に音無さんにさっきのことを謝った。まさか君がいると思わなくて、と嘘をついた(半ばあってるけど)。でも、本当なんですか?とメガネの中の瞳はそう僕に問い掛けていた。しかし僕はそれに気付かないフリをして、音無さんが風邪をひいてしまわないようにストーブの設定温度を3度くらい上げた。

「それで、いつまでこっちにいるの?」
「明後日までです」
彼女がこの北海道にいるのは北海道で研修のようなものがあるそうだ。学校の先生が研修するとか全然イメージできなくて、音無さんがお勉強会みたいなのですよ、とつけたしたのがされに僕を混乱させた。お茶を飲みながらあなたの学校の生徒は素直ですね〜、はい、でも素直すぎるというか元気すぎて大変なんですよ、とおしゃべりしながらお茶を飲むようなものかと思って彼女に問うと、そうだったらどんなにいいことか、とつらそうに微笑んだ。
僕がなんとなく音無さんに電話したとき、彼女の口から「今度、北海道で研修があるので行くんですけど寒いですよね、やっぱり」と出たからこれはチャンスだと思って僕は「研修に北海道にくるならさ、せっかくだから僕のとこにこない?北海道を案内してあげる。あ、暇なときで良いよ」と言って僕の家の住所を教えると、彼女は暇だったら行きますと言った。折角きてくれたのに、ああ僕ってだめだなぁ。

「吹雪さんの家ってコタツ置いてないんですね」
「うん。一応あるんだけど部屋が狭くなるから閉まっているんだ。でも、君がだしてほしいなら出すよ」
「いえ、別に出さなくてもいいですよ。コタツないから寒くないのかなって思ったんです」
「んー、僕はなくても平気。・・・もしかして少し寒い?」僕はストーブの設定温度を見た。さっき少しあげたから暖かくなってて寒い訳ではないはずと思ったからなんだけど、実際は一度しか設定温度があがってなかった。これじゃあ寒さになれてない音無はつらいはずだ。音無さんは少しだけと言った。やっぱりな、と思い設定温度をあげようとしたけどボタンを押す前に手を止めた。
「!」
僕は音無さんに抱きついてこれなら寒くないよと言うと彼女は、相変わらずなんですね、と微笑んだ。音無さんの手に触れると僕が思っていた以上に冷たくてかわいそうと思った。

「吹雪さんは優しいですね」
「そうかな」
「今日は吹雪さんの家にお泊りしてもいいですか?」
「あれ?ホテルに予約とってるんじゃないの?」
「とってるんですけど、今日は吹雪さんと一緒にいたいんです。だめですか?」
僕は、駄目じゃないよ、と言い彼女の頬に唇を落とした。




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