神童と水鳥と錦





ごろんと河川敷の芝生に転がりなんとなく空を眺めている時だった。声をかけられて少し顔を横にそらすと神童がにこりと笑いながら水鳥を見ていてゆっくりと腰をおろした。
「ここで何しているんだ?」
「見れば分かるだろ」
水鳥は、何もしないことをしてんの、と付け加えまた視線を空へ戻した。神童は苦笑いして意味わかんないぞ、それ、と返したが水鳥はなんにも反応しなくただ空をみているだけで神童にとってつまらないものであった。
神童も水鳥のように空を見上げた。寝転がって足や手の力を抜いて。流れる雲を見るのは案外楽しいものだなと思いつつ、水鳥の横顔をちらりと見た。それの視線に気付いたのか水鳥は神童の方を確かめるように横目で見た。
「あ、そういや」
目があって何かに気付いたように水鳥が尋ねた。
「お前、なんでここにきたの?休みの日でも用事があるんじゃないの、おぼっちゃん」
「今、用事をしようと思った」
「意味分かんねーな・・・」
「お前に用事があるんだ」
「何の用事だ?」
「水鳥、俺と付き合ってください」
水鳥はしばらく沈黙してから、それだけ?と呆れた。お前に告白するのが用事だった、と神童はあえて水鳥とは顔を会わせないように言った。
水鳥は少し考えた。神童のことは気に入ってて結構好きな方だがそれが恋愛感情なのかは分からなかった。ここでOKの返事を出せばいいのか、それとも断れば良いのか今の自分にはまったく分からないことだった。
「あ、あとででも良いか?」
「・・・ああ、待ってる」
神童は赤面したままその場から立ち上がって逃げるように走り出した。断られることを覚悟で言ったのにあんな返事は予想外だったのと、もしかしたら希望があるのかもしれないと云う気持ちがわけもわからずぐるぐると回転していてどうすればいいのか分からなくなり、とっさに出た行動がさっきのだった。
水鳥は驚いて神童の走った方向を見たがしばらくしてまた何もしないことをすることにした。なぜかは分からないけれど心臓がいつもより少しはやく脈打っているのを感じていた。これがなんなのか分からずに水鳥は焦っていたが眠ればなおると思いゆっくりと両方のまぶたを閉じた。

「こら、水鳥起きんか」
こつんこつんと何回か拳で頭を叩かれているのが分かってから水鳥は重たいまぶたをあけた。辺りはもう夕暮れだった。
「に・・・しき、か。どうしたんだ?」
「それはわしが聞きたい!水鳥、ここでなにしとったんじゃ。風邪ひくじゃろが」
「何してたって・・・。寝てた」
あほか、と強く言われてばしんと頭を殴られたに近い感じで叩かれた。わしゃー水鳥が死んどる思って驚いたんじゃが驚いただけ損じゃったわけか・・・とまた水鳥は叩かれた。
自転車の後ろのほうをぽんぽんと叩き、はようのれと錦言いながら半ば無理矢理水鳥を乗せて自転車を走らせた。
「錦。こんなこと聞くのって変かもしれないけどさ、聞いてもいい?」
「おう、なんじゃ?」
「心臓ってどんなときにドキドキするんだ?」
錦はそう聞かれて一番初めに思い付いたことが水鳥と一緒にいるときだった。現に今、そうである。しかし思っていることを言えば水鳥にどんな風に思われるかが怖くてなかなか言い出せない。
「そ、そりゃー・・・サッカーしちょるときぜよ!楽しいことをすればわしゃードキドキするきぃ」
「・・・楽しい、ことねぇ」
水鳥は錦の答えに納得できなかった。錦にこの質問をしたのは自分の神童に対してのこの気持ちが恋愛感情ではないと確かめるためだった。でもこさっきのは、楽しいから、というのとはかけ離れている。
「・・・・・・・」錦はひたすらにこぎ続けているように装っていたが、本当は水鳥に言ってしまおうかと悩んでいた。
それから一言も会話もなく水鳥の家の近くまでついた。自転車が減速すると水鳥はふわりとスカートを揺らしながら降りた。
「サンキュー、錦」
「あぁ・・・・・・。水鳥・・・」
「ん?どうした?・・・え!」
水鳥が錦に呼ばれて振り返った瞬間に錦は水鳥の肩を抱き寄せていた。
「・・・水鳥、わしゃー、お前と一緒にいると、・・・ドキドキするんじゃ。」
水鳥は錦の心臓の音を体で感じて、ああこのことか、と納得した。自分の感情がようやく分かってすっきりした反面、神童と一緒にいたときを思い出して顔を火照らせた。
「錦ごめん・・・。」
ぐ、と顔をそむけていることから水鳥は自分には気がないことがなんとなく分かってしまい、あ、と思ってすぐに水鳥を解放した。
「すまん・・・わし・・・」
「こっちこそごめん」
その水鳥の一言で錦は自分の直感は正しいと気付いた。水鳥は自分以外の誰かのことが気になっている。一年間留学なんてしなければきっとこんなことにはならなかったのだろうと後悔したがもう遅いかった。
「錦・・・、ありがと」
水鳥は去っていこうとする錦の背中を見てとっさにそう言った。このもやもやした感情を晴らしてくれて、それでも自分のことを好きでいてくれて。




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拓人くん→水鳥ねえさん←錦っておいしいと思うんです。
拓水←錦っぽい感じをイメージして作ったけど、なんだこの駄作は・・・




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