佐久間と春奈



ねえねえ、あそこにいるのって帝国の男子じゃない?と言う声がちらほら聞こえてくるから窓の外をのぞいてみた。あの中性的な顔立ちは佐久間さんで、きっとお兄ちゃんにでも用事があるんだろうと思いつつ私は佐久間さんのいる校門まで走っていった。佐久間さんのことが少し気になっているからであったが別にそれは恋愛的なものではなくただの気まぐれだった。
「あ、春奈ちゃん」
私から声をかけようと思って影に忍び込んだのにあっさりと佐久間さんに見つかってしまい、こんにちわと微笑んだ。
「ねえ春奈ちゃん、鬼道のいるところまで案内してくれないかな?俺、他校のやつじゃん?だからさ、中まで入る勇気なくてさ」
「やっぱりお兄ちゃんに用事があったんですね」
うん、とぼんやりと呟いている佐久間さんの様子はどこか違和感がある。部室まで案内するとき佐久間さんは私の顔をじっと見つめていたのだ。なにか顔についているのかなと思いどうしたんですかと聞くとすぐに目をそらして何でもないよと言う。そして、また少しするとまた私を見つめてくる。さっきと同じような会話になるだろうと思ってそれ以上は何も言わなかったけどやっぱり佐久間さんはどこか変だ。

部室にはキャプテンと豪炎寺さんとお兄ちゃんの三人がいて次の試合の戦略を練っていた。驚いたように三人は私たちの方を見ていてお兄ちゃんは少し嫌な顔をしていた(けど、不機嫌というわけではないと思う)。
「よう鬼道。ちょっと用事があるんだがいいか?渡したいものがあるんだ」
と佐久間さんは言って鞄から中くらいの大きさで袋にいれたものを渡した。お兄ちゃんは中身をのぞいて優しく笑っていた。あとでお兄ちゃんに聞くと、お兄ちゃんが帝国にいたときに使っていたリストバンドやらハンカチとかだったそうだ。忘れていたのを佐久間さんが届けてくれたということだった。
佐久間さんは用事が終わったらすぐに帰るかと思ったらそんなことはなくて雷門中の部活風景を見たいそうで、戦略を練っていて忙しいお兄ちゃんではなく私に案内を頼んだ。案内しているときにさっきから気になっていることを聞こう。

「佐久間さん、どうしてこんなところで渡そうと思ったんですか?今日みたいな平日の放課後に学校にくるより、休みの日にお兄ちゃんの家に直接届ければ良かったんじゃないですか?」
「どうしてだと思う?」
くすりと佐久間さんは挑戦的に笑った。頭をフルに回転させても分からない。私は人並みに勉強はできるけどそれほどIQが高いというわけではないのだ。
「・・・・・・分からないです」と苦笑いをした。答えが分からないから悔しかった。
「じゃ、答え会わせ。・・・・・・本当は鬼道に会いにきたんじゃなくて、春奈ちゃんに会いにきたんだ」
へっ?と間抜けな声を発してしまった。
「春奈ちゃんって本当鬼道に似てないね、可愛い。ねえちゅうしてもいい?」
「だっだめですよ!」
「なんでだよ。今はここに誰もいないし、鬼道は忙しいからきっと当分こないんだぜ?いいじゃん」
「、わたしが、・・・駄目なんです」
「えっ?俺のこと嫌い?」
う、と呟いた。別に佐久間さんのことは嫌いじゃないし、逆に結構好きなほうだったりする。私は佐久間さんにうまく顔向けできなかった。
少しの間。一瞬だけ、唇になにかが触れてきた。目のなかには佐久間さんの顔がすごく近くにうつっていた。
「な、な、なにするんですかぁ・・・!」
へなへなと力がぬけてその場に座り込んでしまった。
「やったもん勝ち。第一、春奈ちゃん俺のこと嫌いって言ってないじゃん」
私は小さく、あ、と呟いた。本心とは違うことでもとっさに嫌いですという単語を出せば良かったなぁと後悔した。
でも無意識に唇を手でふれて心臓を激しく動かしていることから本当の私は後悔なんかしていないと分かる。本当は佐久間さんのことが好きだったんだなぁと私はにこにこ笑っている佐久間さんをみて思った。




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