聖帝と冬花

※聖帝=豪さんという設定
※少し訂正


またあの人がきている。黒い服をまとった不気味な人が。
いつも剣城くんとしか話さない。二人の関係は知らなかったけど剣城くんをかわいそうに思っていた。

「...」

病院では剣城くんと話すときしか口を開かない。余計なことは何も言わないあの人。
どこか見つめているような目はいつも遠くを見ているようで。

でも、今日はいつもと様子が違うように思えた。
誰かに見られていうように感じて後ろを振り向くと、あの人が私をみていて、目が合うとさっとそらす。私はあの人の名前も知らなければ、話したこともない。でも、サッカー関係者だということは噂で知っている。
あんな人もサッカーが好きなんだ、と思っていたけど違うみたい。噂では裏でいろいろと卑怯なことをしているらしい。そして選手に無理を言っていたりする、とも。

「......」横目であの人のことを見た。
あの人は何を思ったのか急ににやりとして何かに確信したかのような力強い目線を私にくれた。
そのとき、ぞくりと鳥肌が立った。気味が悪い....
今日はそれから何もなかった。何か大きな事故とか患者の容態が変わったとかそういうのもなにも。


また少し日にちを置いて、今度は私の近くに現れた。仕事から帰る途中の少し薄暗く、一番星が見え始めるころ。
曲がり角からすっと影のように現れて私の行く手を拒み語りかけてきた。

「久遠冬花さんですよね」

絶対的な自信を持ってそう言ってきた。どうして私の名前を知っているのだろうとか、どうして私の目の前に現れたのだろうかなどと考えるよりも先に、ここから逃げないとと頭では考えていた。すごく怖い。
さっと振り返りその場から逃げようとしたけど後ろからスーツを着た人たちが現れて囲まれた。心臓が口から出てしまうのではないかというほど、心臓は激しく脈打っていた。

「あなたに来てもらいたいところがあるんですよ。抵抗しなければこちらはあなたに何も危害を加えません」

来てもらいたいところ?私がそんな得体の知れない人と一緒にワケのわからないところに行くとでも思うの?小さい頃から変な人にはついていくなと教わっているわ。何も危害を加えないというのも怪しい。
男はスーツのポケットから何か紙のようなものを取り出して、私に見せつけた。

「…これって……」

それは、白銀の髪の毛を伸ばして赤いスーツをきて椅子に座っている男が写された写真だった。鋭い目つきに整った眉、そして白い髪の毛にどこか見覚えがあった。

「この方をご存知ですか?」
「……いえ…」

どこか違和感があった。私が知っている人間なのだけれど知らない人だ。
さっきから頭の回転が速くなっている。

「この方は、聖帝というお方です。簡単に言えばフィフスセクターの一番偉い人です。そのお方があなたに会いたいそうで、それで来ていただこうと思ったのです。あのお方はあなたに危害を与えるなと強くいいましたので、大丈夫ですよ」

さっきの逃げたいという意見から180度変わって、今度はこの写真の人に会いたいと思っている自分がいた。会えばきっと誰だか分かって違和感を拭うことができるかもしれない。
好奇心に影のように付きまとっているのは危険。そう理解しているからこそ理性を保ている。でも、私は好奇心に負けた。
この写真の人に会うために私は黒いスーツの男達についていった。


男達が言ったことは本当に守られた。私が車に乗ってから降りるまで何もされなかった。心配していただけに本当に良かったと思える。
重そうな扉が自動ドアのように開いてまた閉じてを数回繰り返すと、今までの部屋とは雰囲気が違った部屋にたどり着いた。そこで私の側にいた人たちは元来た扉を開けてそこから出て行った。
私は目の前を見た。

「こんにちわ、久遠冬花さん…」

セイテイという人と私が目をあわせる。この威圧感はなんなんだろう。今まで出会ってきた人たちの中でもとてつもなく強い瞳の力。黒い瞳が私をとらえている。
写真からは伝わってこないこの存在感に私は怯んだ。

「…なぜ私をここに呼んだんですか?」
「それは……。それより、急に呼び出して誘拐みたいなことをして悪かった。それは謝ろう。君に危害を加えるなと命令したんだが何もされなかったよな?」

はい、とうなずいた。
満足したように顔をほころばせ私の頭から爪先まで舐めるように見た。何かを確かめているように見えた。

………………。
何分か分からないけど、確かに時間は過ぎていった。
長いようで短く、短いようで長い。初めて会ったはずなのに再び会えたことを体が嬉しく思っている。鳥肌がたつ。それは怖いとか寒いとかじゃなくて感動しているからだと自分はなぜかそう思った。

「私達はここで初めて会った、そうだな?フユカ…」
「……!……はい…」

名前を呼ばれる違和感。
いつだか、遠い昔もこの人と会ってその名前で呼ばれたような気がする…。

「私はほしい物はなんでも手に入れたい主義でね…。君もほしくなったんだ」

そんなわがままな理由で私があなたのものになるもんですか。そう思っていた。
だけど、だけど。

「豪炎寺くん、……」
「その名を言うな…!」

豪炎寺くんなんでしょ?あなたは。
雰囲気も容姿も何もかも変わってしまったけれど、ここにいるあなたは豪炎寺くんよ。
ずっと好きで恋して両想いだったあなたに気づかないわけがないじゃない。

「豪炎寺くんは、私に気づいてほしかったんでしょう……?」
「……君の言っていることが分からないな。私はだた君がほしくなっただけ。それ以下でも以上でもない」
「私も豪炎寺くんの言っていることが分からない。……強がってもだめよ…」

豪炎寺くんは怒っているようで椅子からすばやく立ちあがると私の目の前に立ちふさがった。また、背が伸びている。これじゃあ私、豪炎寺くんに届かないよ。

「…私は強がってなどいない。君のほうが強がっているんじゃないのか?この部屋に私達二人しかいないのだから」

この人が本当に豪炎寺くんなのか疑ってしまったけど、私の勘違いではない。この人は絶対豪炎寺くん。

「あなたは豪炎寺くんよ。…だって、そうじゃなかったら乱暴なことするはずよ。でも、してこない。だからあなたは豪炎寺くん」
「ほう…。ではここで乱暴なことをすれば豪炎寺という奴ではないのだな?」

どうして?豪炎寺くん、どうして?
なぜそんなことを言うの?なぜ私にそんなことをしようとするの?
強がるのはもうやめて。あなたが認めれば、あなたはつらい思いをしなくて済むのよ?

薄れ行く意識のなかで豪炎寺くんの名前を連呼した。もう私の前に現れるはずのないあなたの名前を。




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