天馬と葵
いつもと違う帰り道。
道順が違うって意味じゃなくて、雰囲気の問題。別に雰囲気が悪いってわけじゃないんだけどね。
「天馬、手袋は?」
「持ってきてないよ」
「えー!寒いでしょ!」
まあね、と俺は鼻の先をこすって言った。すらっと手を葵にさしだした。
葵はなんのことだか分かってない。
「手、葵が暖めてくれるんでしょ?」
「それって遠回しに、手を繋ごうって言ってるの?」
「うん、そうだよ」
俺はそう言ってなかなか手を握ってくれない葵の手をぎゅとつかんだ。
葵の手は手袋をしていたもんだから全然暖かさなんて伝わらない。
「もう、天馬ったら」
「へへっ、だって俺、葵のこと好きだもん」
「...私も天馬のこと好きなんだから」
俺はむっとした。俺の方が葵のことをずっと想っている。君が俺を想うよりももっとね。
友達として帰る道と恋人として帰る道は全然違う。もっとずっと長く一緒にいれたらなって思うようになる。
少し憂うつな帰り道が好きになった。誰にも邪魔されない二人の時間なのだから。