御門と冬花

※gdgd
※冬花←御門←雅野





あの人を見たとき、生まれてはじめて大人の女性を見たような気がした。今まで見たことがなかったわけではないがなぜかそう思った。
ツンとしたにおいが鼻につくから嫌だったのを覚えている。薄暗い病院で名前を呼ばれるのを待っていて暇だったからぼうっとして動くものを目で追っていたときだった。パタパタと音を出しながらある女性が歩いていた。俺は不覚にもその女性に見とれてしまうほど夢中になっているのに気付いた。夢のなかにいるようなふわふわした感覚から抜けたのは名前を呼ばれた時で、この変な感じから抜けれて嬉しかったのかそれとも悲しかったのかは覚えていない。
診察が終わったあと、あの人が俺の前を横切ったのでなんとなく追いかけてみた。怪しまれないように少しだけ距離をとってついていき、ある病室に入っていった。ドアが閉まっていたので誰の病室なのか、なかで何をしているのかまでは分からなくてどうすることもできず、こんな子供じみたことをしてしまい客観的に見て俺がこんな恥ずかしいことをしていると気付き、そのまま病院をあとにした。
俺が病院に世話になるのはこれで最後だと思っていたから必然的にもうあの人には会えないだろうと考えていたのに、ある日の早朝に髪をおろした姿で帝国学園に入っていくのを見かけた。そのまま追いかけてしまおうかと思ったが、彼女が入っていったところは関係者以外は立ち入り禁止であり俺は再び彼女を追うことを断念しなくてはいけなくなった。彼女は看護師でもあり帝国学園の関係者だったのか。でも、この帝国でみたのはこれが初めてだったから、関係者ではなくて全くの部外者なのではという考えも浮かんだが、あの場所は指紋認証システムがあったりパスワードを入力しなくてはいけなかったりするからそれはないだろうという答えに落ちついた。
授業中も部活の練習中もあの人のことをずっと考えていて皇帝ペンギン7号を出すのに失敗して足を軽くひねってしまい佐久間コーチから今日の練習はもうやめるように言われずっと見学をしていた。雅野と目が合うとアイツはにやりと笑ってこちらを馬鹿にしたように見てきた。馬鹿にしたようにではない、実際に馬鹿にしているのだ。アイツは俺のことを好んでいなく、むしろ嫌っている。俺がなにかしら失敗をするとかならず嫌味を言ってくるから腹がたってしまってしょうがない。
部活が終わると同時に雅野は俺のところへ駆け寄ってきた。
「御門、お前は勝つことしか考えないんじゃなかったのか?今日のお前は勝つこと以外のことを考えているように感じる。......そんな状態で試合に出してもらえるとおもっているのかい?まあ、俺としてはお前が試合に出ないほうが嬉しいけどな」
雅野の発言をまとめるとこうなる。もっと酷いことを言われたような気がするが覚えていない。それはきっと俺があの人を気にしすぎてるほど気になっていたのだろう。
あの人のことを誰かに聞けない辛さもあってか俺はますますあの人を求めるようになり、実際にはどんな人なのかも分からないのに幻想を抱いていた。誰か大人に聞けば良かったのだろうか。俺の見たあの人はいったい誰で、なぜあんなにも俺の心をしめつけるのだろう、と。でも鬼道総帥や佐久間コーチ、またはその他の教師に聞くのはとても乗り気がしない。見下され、馬鹿にされそうな気がしたのだ。
これであの人のことを知る術はすべて絶たれたと大袈裟なことを思っていたが、後日俺はチャンスを得る。帝国の周りを走っていたときあの人と雅野が一緒にいるところをみかけたのだ。なぜ雅野と一緒にいるのだろうとかいう嫉妬はなく、むしろまた見れたことを嬉しく思っていた。
雅野に廊下ですれ違ったときにあの人のことを聞き出した。一緒にいたあの人は誰なんだと聞いたら、お前惚れたんだなとにやにやされながら言われて思わずかっとなり雅野の肩を力を込めてつかんだ。なにするんだ、俺はGKなんだぞ、と睨まれたが俺は構わずつかみ続けた。痛いと言うので教えれば離すと言った。雅野はその俺の言葉を聞くとすぐに口を開いて「冬花さん」と呟き、手を離せよと怒って言ってきた。俺が手を離すと雅野はまた俺に嫌味を言ってきた。冬花さんはお前みたいな乱暴なやつは嫌いだよ、と雅野は言った。
「御門、お前が冬花さんに好意を抱いてるのは分かったが、真実を知ればお前と冬花さんが結ばれることなんてないからな。そうじゃなくても冬花さんはお前みたいなのなんか好きにならないけれども」
「いちいちうるさいやつだな。なんで結ばれる結ばれないとかいう話になるんだ」
「ハハハ、面白いことを言うんだね。お前が冬花さんのことが好きだというのは知っているんだ。そうやって話題をそらそうとするな。」
「す、すき...?」
「そうだよ、御門。お前は冬花さんが好きなんだよ。でもね、君たちは結ばれることはない。何度も同じことを言わせるな」
雅野はさっき俺がしたように肩を力強くつかんできた。思ったより力が強くてよろめき雅野にまたくすくすと笑われた。
「雅野、」
「結ばれない理由を知りたいか?知りたくなくても親切な俺は教えてやるけど。シードの君と革命派の冬花さんはくっつくことなんてありえないからねぇ」
「な、なんで俺のことをシードだと思うんだ?そもそもこの帝国学園サッカー部にシードなんているはずないじゃないか」
「お前さぁ、もうバレバレなんだよ。誤魔化そうとするな、シードくん」
「雅野、」
俺はもう誤魔化しても誤魔化しきれないと感じて諦めて肩をすくめた。
どうして革命派の彼女と雅野に関係があるのか分からなかった。そして雅野がここまでして俺を傷つけたいのかも分からなくてとても苦しんだ。結ばれるべきではないとはやくに知っていれば良かったのに、雅野が彼女の名前を教えてくれなかったら良かったのに。わずかな可能性にかけて彼女が革命派じゃなくて俺がシードじゃなかったら良かったのにと考えた。

(そもそも、あの人があんなにも美しくなかったら良かったんだ。)




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