立向居と春奈

もうすぐ大きな大会-フットボールフロンティアインターナショナル-が終わって俺たちはこの大きなプレッシャーからようやく解放される。でも、休むことは許されない。それは世間が許さないんじゃなく、自分自身が許さないのである。
音無さんの所属する雷門中はとても強豪で、来年のフットボールフロンティアでは優勝候補とも言われている。だから全国で雷門中と試合するために全国まで勝ち上がらないといけないから、練習を怠ることは許されない。
皆と別れる前に音無さんと約束をした。俺が全国まで勝ち上がって雷門中と試合して倒してみせる、と。音無さんは楽しみにしてるね、と俺の頬に軽く唇を落としてくれた。ふふ、といたずらに笑う彼女にはなんのためらいもないようで一人赤くなっている自分が恥ずかしい。
「じゃあね、楽しみにしてる」
彼女の別れの挨拶はとてもあっさりしていた。そして、どこか余裕を感じられるその台詞に俺の闘争心は高まっていた。絶対に勝ってやる、絶対にシュートを決めさせないからな。
もしね、万が一立向居くんのところが雷門中に勝てたら私がご褒美あげるね、と別れたその日のうちに音無さんから電話があった。ご褒美はキスがいいな、と言ったらそれは駄目と言われた。じゃあ婚約してよ、と冗談半分に言うと、いいよ、と即答で返ってきて拍子抜けした。もし負けたら・・・・いや、今は勝つことだけを考えようか。
フットボールフロンティアはすぐにやってきた。一回戦二回戦三回戦までは順調に進んでいたがそれ以降は強豪校のオンパレード。ぎりぎりPKで勝ったり相手のオウンゴールで試合に勝ち進むことができ、もう全国大会の出場権を手にいれていた。全国に出れるだけで満足している人も多かったけど、雷門中に勝てるまで俺は満足できない。
「全国大会でまってる」
俺は挑戦的なメッセージを音無さんに送った。音無さんはきっと笑って自信満々ね、と微笑んでいたに違いない。電話を切るとき、好きだよ、と呟いて勢いよく切った。音無さんに聞こえていたのか分からないし、もし聞こえていたとしても音無さんの答えは俺は分からない。
うまく勝ち上がれば雷門中とは二回戦にあたることになる。勝ち上がればの話だが。運悪く北海道のとある中学校と一回戦が当たってしまった。かつての仲間である吹雪さんが所属している白恋中は攻撃や守備のバランスが最適なチームであり雷門中と同じく優勝候補とも呼ばれている。吹雪さんのシュートを受けれることはとても楽しみだけど少し怖い。
「吹雪さんが相手でしょ?一本だけでも止めれれば良いほうだね」と音無さんはわざとらしく眼鏡をくいっとあげたのだ。
「ふん、一点も入れさせないからな。絶対勝つ」舌をぺろりと出して売られた喧嘩を買う俺。
「あー、そうだ。負けたら罰ゲームね」
「いいよ?どんな罰ゲームにする?鼻からスパゲッティでも食べればいいの?」
「そんなんじゃありませーん」
「じゃあ何?」
しばらく黙って、私をお嫁さんにして、とはにかんだ。はは、と渇いた笑い声をあげて女の子にプロポーズさせるなんてかっこ悪いよと言った。音無さんは楽しみに待ってるよと俺の頬に人指し指をツンと押した。
くるりと一回転して彼女はまた微笑んだ。この前の返事だけど私も好きだから、と。たたた、と逃げるように彼女は走り出した。




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