照美と夏未

「ねえアフロディくん」
「なんだい?」

後ろでアフロディくんは髪の毛をとかしてくれていた。どうして私なのと聞いたら君は僕と同じだからだよとあいまいすぎていかにも神様が言いそうなことを言われてしまってはにかんだ。
アフロディくんは確かに神様だったけど、実際には女神様だった。どうして男の子なのに女神なんだろうと疑問に思ったけど、それは彼が美しいためだったと自分で納得していた。

「あなたは本当にかみさま?」

クシを動かす手は止まらず、アフロディくんの顔は笑っているように感じた。微笑んで私を包み込んでいるような優しい眼差しはきっと彼にしかできないだろう。彼と同じ形をしたものでも彼と同じ雰囲気を出すのは無理に等しい。
そうだよ、と短く答えた。それだけで答えとしては十分だったけど、なんとなくいたずらしてみたくなってどうしてそう言い切れるのかしらと聞いた。彼は声を出して笑っていた。上品でとても美しいものだった。

「だって僕は神の権限である運命について変えられるんだもの」
「ふふ、そうなの?だったら私の運命を変えることはできるかしら?」

半ば冗談で言ったのに、アフロディくんはうなずいた。きっとアフロディくんも冗談だったんだろう。でも、なぜかアフロディくんの言うことは信じてみる価値があると思えた。それは私の前に急に現れたりしたからだった。

「どんな運命がいかが?ハッピーえんど?バッドえんど?それとも…」
「まって、ねえまって。そんな最後の結果としてじゃなくて、その、なんというか…。中間の運命、って言えばいいのかしら。例えば、だれか私のこれまでの人生を変えてしまうような人に会える、とか…」
「なるほど、運命の人を選択したいわけか」

まあ、そうなるわね、と恥ずかしながら言った。彼はゆっくりとうん、うんと大きくうなずいていて不思議だった。思い悩んでいるようで彼にはとても似合わない姿だった。

「運命の人…。難しい。……これから出会う人達より、これまでに出会った人達のほうがやりやすい…。これまでに出会った人達のなかで、誰かいるかい?」

さすがの神様でもこういうのは難しいらしい。どれが簡単でどれが難しいのかは全く分からないけど、この神様に無理を強いるのはかわいそうだった。でも、これまで出会った人たちのなかから選べと言ったら難しい。誰にしようかしらということじゃなくて、選ぶのはもったいないような気がして、私には選ぶ権利なんかないような気がして。

「…分からないわ……」
「君は迷っているようだね。君には想い人がいるようだが、選ぶことをしたくないと思っている」
「えぇ、そうよ……。だからどうすればいいのか分からなくて…」
「ねえ、君は幸せになりたいかい?」
「……まぁね。不幸になりたい人なんてこの世にはいないわ」
「そうだね、君のその答えを待っていたよ。…だったら、神に頼むことは『自分を幸せにしてくれる人』でいいんじゃないかい?」
「……それでいいのかしら?私、欲張りじゃないかしら?」

神様はふっと笑うと、神様の僕のほうが欲張りだから大丈夫、と言ってくれたのがどうしてか安心できる言葉だった。その言葉が私を慰めているというわけではないのに。
私はアフロディくんにそれでいいわよと言った。多分、このときからだと思う。アフロディくんと私との運命が大きく変わったのは。そもそもアフロディくんが私の前に現れたときから運命は変わっていたんだろう。アフロディくんが私の前に現れることにより出会いという運命を私の人生に付け加えたんだわ。
神様は欲張りね。確かに私は『自分を幸せにしてくれる人』を運命の人にしてほしいと頼んだけど、まさかあなただったとはね。あなたは私の運命を変えると言って、実際には神様自身の運命を大きく変えた。
私は優しい天使のようで欲張りな悪魔だった神様にだまされてしまいました。


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・照美→夏未→円堂
・10年後の未来では円夏ではなく照夏になってしまったという設定
・勢いにまかせてかいたので意味不明、です





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