なまえは食堂で珈琲を飲みながら昨日のことを思い返していた。日曜日だった為左之の家にお邪魔していた。暫く普通に過ごしていたがまぁいい歳した恋人同士が2人きりで部屋にいるとキスの1つくらいはするわけで。いつもは触れるだけの、それも優しいキスだけだったのだけれど、昨日はエスカレートして彼の舌まで侵入してきた。もちろん恋人同士な訳だし嫌というわけではないのだけれど、それでもそういう事に慣れていない私は軽いパニック状態に陥ってしまうのだった。
一枚上手な左之といるといつも心臓がもたなくなる。なんとか精一杯睨み返すけど、全然効かなくて代わりにキスが返ってくるだけ。悔しいけどそれでもやっぱり左之とするキスは気持ち良くて、ついつい許してしまう。柔らかくて甘い。壊れ物を扱うように優しく添えられている骨張った手。‥‥って何考えてんの私!首をぶんぶんと振ると気を取り直して珈琲に手を伸ばす。
「‥っ‥‥」
よそ見をしていたら珈琲を零してしまい、その拍子に少しだけ手に被ってしまった。指を見てみると少しだけ赤くなっていて、火傷の痕はずきんずきんと疼くように痛んでいる。
仕方ない。保健室で氷でももらってこよう。溜息をひとつつくと席を立ち上がった。
「山南先生いますかー?」
保健室に入ると山南先生のいるであろう机の周りにある後ろ側カーテンをめくって覗き込んだ。
「山南先生は今出張中だぜ?」
「えっあっ、左之?!」
「生憎俺が代わりでな」
そこには山南先生の姿はなく白衣を纏った左之が座っていた。初めてみた左之の白衣姿はなんだかお医者さんになったみたいでちょっと見惚れてしまう。ってそんなこと考えてる場合じゃないよね!まさか火傷の原因となった張本人(とも言えるひと)が保健室にいるなどとは全く思っていなかった為一瞬思考回路を見失ってしまう。
「あ、私やっぱり大丈夫だから帰‥‥」
踵を返しながらなんとか言葉を発すると、言いかけている最中に私の腕をぎゅう、と掴まれた。反射的に後ろを振り返る。
「怪我か?ちゃんと手当てしないと、女の子なんだから傷痕残ったら大変だろ?」
「う‥‥‥」
「ほら、どうしたんだ?」
覗き込むように目を見られてなんだか言い訳も返せなくなってしまった私は観念して白状した。
「火傷、しちゃって」
「どこだ?」
「人差し指」
「あー‥‥まぁ酷くはないみてぇだな」
「だから、大丈‥っ」
言い終わる前にちろりと指先を舐められる。ひんやりとしてざらりとした感触にびくりと肩を震わせると左之は尚も口のなかに指を含んだ。
「ちょ、左之‥‥」
「いいから、黙ってろ」
「ぅ‥ぁっ‥‥」
丁寧に指を舐めている左之を見ていると顔に熱が集まってくる。腕を引こうとしても私の力じゃびくともしない。仕方なく大人しくしていたら、何度か舐めまわした後にやっと解放してくれた。
「火傷したときはさっさと冷やさないと、な」
にやりと笑って言ってのける左之に既に耳まで真っ赤に染まった顔を思い切り逸らした。
「‥‥もう私左之がいるときは保健室来ない‥!」
「まぁ、そういうなって」
「えっあっ」
腕を捕まれた感触がすると同時に不意打ちで腕を勢いよく引っ張られた為左之の中に倒れ込んだ。
「俺はこっちも味わいたいんだよ」
そう言うなり唇を軽く塞がれる。またしてもぴくりと肩を揺らすと気をよくした左之は何度も啄むようなキスをしてきた。
まだ、しばらくいるだろ?
耳元で甘えたように囁かれる。私は苦笑したあと、観念して左之に身を預けた。
甘く痺れる接吻を頂戴
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(火傷)