(微パロディ) ※エリオットとギルの立場が逆だったなら * オレにはなかなかに複雑な悩みがある。解決の兆しは見えないし従者も何故か機嫌が悪くなる厄介な悩みが。 「好きです…!」 「う、ん…ありがと、う…?」 だって従者の義弟に愛の告白をされたんです、ははは。 っていやいや笑えない笑えないよ。手をがしっと掴まれオレよりおまえの方が数段可愛いと思うけどというような愛らしい視線に熱っぽく見つめられ、顔を引き攣らせたオレの後ろではエリオットが盛大な舌打ちを鳴らしていた。 考えてみると不思議な縁だと思う。オレにはエイダと、従者兼弟のような――現在のエリオットは決して認めようとしないが――エリオット、所謂年の離れた二人の妹弟がいた。と言ってもエリオットは血の繋がった家族ではなく傷だらけの記憶喪失状態で倒れていたところをオスカー叔父さんが発見し、聖騎士物語に憧れていたオレがこいつを従者にする!と言ってしまった流れで巻き込まれた形なわけだけど。 今思えばあんな小さい子によくもまあそんなこと言ったなとか従者って言ってもわからなかっただろうな悪いことしたなとか、心境は複雑だ。 けれど二人ともオレを慕ってくれていたし、オレもかなり溺愛していた自信がある。絵に描いたような幸せ三兄弟だった、はず。 それが一変したのはオレがアヴィスに堕とされてからだ。戻ってきた世界は10年後とか言われて、エリオットもエイダもオレより年上になっちゃってるし。エリオットなんてナイトレイに養子に入ったとか言ってくるし。何より気に入らなかったのはあんなに小さくて可愛かったエリオットがオレより少し大きくなったからとちび呼ばわりしてくることだ。あの愛くるしい幼きエリオットよカムバック。 余程荒れた生活だったのだろうか…と思わず後ろを向きエリオットを見つめれば『…なんか文句あるのか。』と睨みつけられた。今やこんなのである。 「エリオット!オズ坊っちゃんに失礼なことばかり言わないでください!」 「だああっ、うっせえな!大体坊っちゃんとか呼ぶなおまえはバカか!?」 我慢の糸が切れたのか叫んだエリオット。一瞬場が静かになり、すぐにふっと鼻笑いが響き渡る。 「だって、オズ様は嫌だと言われたので。」 「…んなこと言ったのかおまえ…。」 ああ、早々と前を向いておくんだった。剣呑なエリオットの眼差しにへらっと笑って誤魔化してみるが多分効果はないだろう。 握られたままの手が少し息苦しい。 「その、オズ様とか堅くて嫌だなーって…。身分もほら、一緒なわけだしおかしいだろっ?」 「……。」 「な、なに…そんな睨まないで、よ…。」 確かにオレだって坊っちゃん呼びはおかしいなと思うが。可愛らしい見た目に反して意外に頑固なこのエリオットの義弟…ギルはどうしてもオレをオズ、と呼び捨てにするのは嫌らしい。 そう、ナイトレイに養子に入ったエリオットには義弟が出来たというのだ。聞かされた時は『はあっ?』と声を上げてしまったけれど、考えたら当たり前といえば当たり前。貴族は跡取りや何やで子供が多いものだし。 エイダとその義弟さんが同じ学校に通っているということも風の噂で聞いていた。でも、まさか忍び込んだラトウィッジ校でばったり出会った上に、さ…、 一目惚れされるって誰が予想出来ますか。いや、だって、オレ男…! 「…もういい。とにかくおまえは帰れ。」 「嫌です。僕はエリオットじゃなく坊っちゃんに会いに来たんですから。」 「おまえな…!」 ぷいっとそっぽを向いたギルはわざわざ外出許可を取ってオレに会いに来てくれたらしい。今日と明日は週末でお休みですから、と微笑まれれば悪い気はしなかった。というかちょっと…嬉しくなっちゃうよ、な。ギル可愛いんだもん。 思わずオレも笑い『そっか。』と返すと、エリオットの中では何かが切れたのか繋いでいた手を無理やり外された。そのまま逆にエリオットにぎゅう、と握られ不思議に感じる。ベタベタ構うような性格ではないエリオットがこんなことをするのは珍しい。 「いいから、帰れ。」 低音に空気がヒヤリとする。しかしギルは怖じ気づかないのか慣れているのか、真っ向から見つめ返すだけ。むしろ間に挟まれているオレの方がわたわたしているような。 秒針がひたすら時を刻む音を立て、やがて先に折れたのはギルの方だった。ふう、とため息をつき座っていたソファから立ち上がる。 「今日は帰ります。」 「もう来るな。」 「坊っちゃん、また明日。」 「えっ?あ、うん気をつけて…!」 慌ててそれだけを告げればへにゃりと嬉しげな顔を見せてくれたギルは一礼をして出ていった。取り残された二人きりの部屋に盛大な舌打ちがまた響く。 「エリオット、なんでそんなにイライラしてるの…怖いんだけど…。」 「…うっせえな。」 「なっ何それ!態度悪いな!せっかくギルが会いに来てくれたのに、お兄ちゃんのくせして嬉しくないの?」 ガタン!と乱暴に椅子を引いて座ったエリオットは最近また読み直しているらしい聖騎士物語――これは確実にオレの影響だろう――を開く。こちらを見ようともしない態度にカチンと腹が立った。 「オレに会いに来たわけじゃねえだろ。」 「…ヤキモチ?」 自分に会いに来てくれなかったからイライラしてるのか? そう思うも結局エリオットは夕食の時間まで口を開こうとはしなかった。 * 長ったらしい文章でごめんなさ、い…続きます! 11.01.08 |