(現パロ) * 日本のホラー映画ってかなりレベル高いんだっけ。そんなところに力入れるなよ…! 心中でそんな愚痴を吐き出し、遊園地の雰囲気に似合わないおどろおどろしいオーラを纏う建物を前にオズは頬をひくつかせていた。先日ギルにお化け屋敷なんて怖くないよばーか!宣言をしてホラー映画を見まくったはいいが――もちろんギルは見ていない――、予想以上に怖すぎて最近夜一人でいるとゾクゾクしたりする。そんな状態なのに、怖いことで有名らしいこの遊園地のお化け屋敷に入るなんて。愚の骨頂もいいところだ。 自分で招いた事態なのにオズはうぅ、と心でこっそりと泣き声を漏らす。隣にいるギルは反対にもう腹をくくっているのか何も言わない。 「な、なあギル。おまえほんとに大丈夫なわけ?」 「何がだ?」 「いや、だから…その、怖いって降参するなら仕方ないしお化け屋敷やめてあげても、い、いいけど?」 素直に怖いからやめよう、と言えないのは小さい頃からの仕様だ。しかもギルに怖がっていることがバレるのは非常に癪でもある。 しかし口先だけで強がってしまったオズに鈍感だと周囲に謳われるギルが気づくはずもなく、金の瞳は諦めたようにふっと笑った。 「いや、いい。もうオズのお望み通り入ってオレを笑うなり何なりしたらいいさ。」 「そ、そう。」 何だこいつ、なんでそんなに潔いのっ? オズの内心はあせあせなままにギルは従業員と話して二名で、などと聞こえてくるし逃げ場はないらしいと悟れば無性に不安になってきた。背中がむずむずとする感覚。 入り口でオズ?と自分を待っているギルの側に不自然じゃない程度に近寄り、そうしてぱっと手だけ握る。手を繋いだのなんて数年ぶりだ、男同士だしお互い年齢も上がってきたしで普通手を繋いだりしないから。 金眼が驚いたように見開かれるのにかなりの居心地悪さを感じつつ、オズはついと目を逸らした。 「その、怖がりなギルのために手だけ繋いでてあげる!」 言いながらオズの指先に力が篭る。ぎゅう、と恋人繋ぎで絡め取られた手をギルは未だにぱちくりと見つめてからゆっくりと嬉しそうに『そうか、ありがとう。』と笑った。 ギルの手のひらは当たり前だがオズよりも大分大きくすっぽりと覆い込んでしまうほど。それにわずかに安心感を覚えてオズは手渡されたペンライトを空いたもう一方に持ちバレないよう深呼吸を繰り返す。 お化けの類いが根っから苦手なギルと、ただ今絶不調の自分。そんな二人でお化け屋敷に入ったって大惨事になるとわかっているのに。入った途端に一気に視界情報は暗闇に遮られ、ただそれだけでも怖い気がしてきた。 「…ギル、もうちょっと、その…。」 「な、なんだ?」 オズが話し掛ければギルもすでに吃っていて怪しい。見上げた翡翠と見下ろす金が交わって、その瞬間にどちらからともなくははは、と乾いた風に笑った。 「も、もうちょっと寄って?なんかここ寒い気がする、から。」 「あ、ああ、そうだな!空調がおかしいのかもしれない。」 怖さ故のオズの出任せにも直ぐ様頷くギル。手だけではなく身体までぴとりと二人で寄り添い合わせれば煙草の匂いがオズの鼻腔を包んだ。その瞬間にドキリとする。 繋いでいる、というよりは最早ギルの腕に抱き着いていると称した方が正しいそれ。普段は経験しない近すぎる距離にじわりじわりと熱が上がる気がした。一気に恐怖も吹っ飛ぶ。 ただどうして自分がいきなり緊張し出したのかがオズにはわからない。 「や、やっぱ近い!離れろ!」 「イテッ!」 ぐっとペンライトを持った手でギルの顔をオズが押し返す。自分から近寄れと言っていながら酷い仕打ちだとは思うが相手はギルだからまあいいだろう。結局手を繋ぐだけの距離に戻った二人の間には寂しげな何かが漂う。それがオズの意識的なものなのか共有しているものなのかはわからないが。 暗い周囲にぼんやり自分の頬や耳が赤く浮かんでいないか心配で堪らない。うう、と顔を下げたオズはけれど身体の心許なさも知っている。 ああもう、自分はどうしたいのか。 そうは思うけれど合言葉は『相手はギルだから』だ。繋いでいる手をオズが緩慢に引いた。 「あ、あの、やっぱ近く来て。」 「何がしたいんだ!?」 そんなのオレが聞きたい、と転がしオズが俯いた。 * ギルはオズの我が侭に振り回されてたらいい! 10.11.20 |