ギルオズ4 | ナノ


何とかしないと、とは言っても実際はどうすればいいのだろう。ぼうっとするギルの前でオズが小さくくしゃみをした。あたたかかった部屋から出て寒いのだろうか。今日は気温は低くないが風が強い。
急いで上着を取ってきたギルはそのまま小柄な身体にそれを掛けてやる。わずかに上を向いた顔がありがとうと紡いだ。
とりあえずありがとうと言われるようなことをすればいいだろうか。それはつまり役に立っているということだ。
そこまで考えたギルの前で、そんなに急に温もりはしないのかオズが鼻を鳴らす。そういう魂胆だというほどではないが、狙ったか狙っていないかだと狙った。ティッシュを二枚ほど取ったギルはオズへと差し出す。最早鼻をかませてやる勢いのそれにオズがえ、と身を引いた。
「ちょ、なに…?」
「鼻。」
「あ、ああ、ありがとう…自分で出来るから貸して。」
警戒をしているのか眉を寄せながら鼻をかむオズの、今しがた使っていたフォークとナイフをギルが掴む。小皿にはまだ大きなシフォンケーキが残ったままだ。
何するの?と見上げてきたオズには答えずギルはシフォンケーキを一口サイズに切っていく。
まさかとは思うが、オズはギルの手首を掴む。
「待って、何してるわけ?」
「食いやすいように切ってやろうかなと。」
「そんなことしなくていいからっ!自分で出来ることは自分でやるし!」
切らせるとかどこの暴君っ?とつっこんだオズは、ギルの様子がおかしいと気づいたのか立ち上がり彼の背中を押す。ぐいぐいと追いやられたギルはテラスの外──つまりオズの部屋──へと出されてしまった。
「ちょっと仕事でもやって来なさい。」
「オズ!?」
「オレ一人でお茶する。これ命令だから。」
「う…っ。」
鋭く睨まれた上命令と来ればギルに反論の余地はない。しばらく瞳を揺らめかせ、渋々と出ていった従者の背中にオズは息を吐く。何やら今日はギルの様子がおかしかった。
夜までに治ってればいいけど、と呟いたオズは席につき直し、フォークでぶすりとケーキを刺した。



「ちょっと、ギルが変なんですけど!」
そんなオズの祈りはこの数日間で粉々に砕かれていた。ばん!とブレイクの部屋に駆け込んできた彼は慌ててドアの鍵を閉める。流石に驚いたのか目を丸くしているブレイクにも構わずオズはその薄い肩を力強く揺らした。
嫌がられそうだとは思ったが実際にブレイクは嫌そうな表情を隠しもせず揺さぶられている。
「何デスカ急に…。」
「なんかもうギルが変で気持ち悪いっ。」
「ギルバートくんは前から奇っ怪な行動を取ることはありましたヨ、ストレス故に。」
「そ、そういうことじゃなくて…というか可哀想なこと言わないでよ!」
そのストレスの原因は十中八九目の前の彼に違いない。ついでに言うとギルだけでなくレイムもその被害者だろう。
あまり真剣に取り合ってくれないブレイクに痺れを切らしたのかオズは震える息を溢した。
「最近、過保護レベルが増してる…気がする。」
「過保護レベル?」
「この年になってお風呂手伝うとか言い出すし!ご飯食べさせようとするし!」
「…あーん、みたいな?」
ブレイクの言葉を否定したいのは山々だがそれ以外の何物でもない。渋面で頷いたオズに彼は目に見えて引いた。
「それは、」
「ちがっオレは関与してない!」
確かに自分でも端から見れば寒気のする光景だがオズは無罪だ。焦って主張したオズに合わせブレイクも息をつく。
ギルは元々オズに過保護だ、呆れるくらいに。何か原因は?と尋ねてもオズには覚えがないのか首を振るだけだった。いつの間にか下げられた手が空気を掴む。
「ならいつからなんデス?」
「…五日前、くらいだと思う。その日シフォンケーキ食べてて、」
「ワタシ貰ってないんですけど。」
「後で請求しに行って。」
なかなか進まない話にオズが前髪を掻き上げる。
その日は初めからギルの様子はおかしかった。自分がいなくなったらどうするかなんて訊いてくるものだから、表面に出さずとも少し腹が立って意地悪を言った。ギルはオズに自分を大切にしろと言うがそのまま彼に返してやりたい。オズにとってギルは代わりなどいない大事な存在なのだと何故気づいてくれないのか。
事のあらましを話し、違う従者を捜すって言っちゃったんだよね…と締め括ったオズにブレイクは、次はでかでかとため息を吐いた。当事者にはわからないというものなのか、オズもギルもどうにも鈍い。
「どう考えてもそれが原因デス。」
「なんで。」
「それは直接訊いた方がいいんじゃないですか?」
「…直接って、何って言えばいいかわかんないし…。」
「意地悪じゃなく今言ったことをそのまま言ってみろってことデス。」
わかったなら早く出ていきなさい、と追い払う仕草をしたブレイクに、これ以上彼は相談に乗ってくれないと悟ったのかオズはいつかのギルと同じくはーい…と渋々出ていった。
直接おまえが大切だ、とか言えるはずないよなあとぼやいたオズの嘆息は廊下にゆっくりと消える。
そんな彼の肩を、大きな手のひらがぽんと叩いた。

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