さいきん、ろっぴがとても楽しそうだ。
と、つがるに言ってみた。つがるもこっくり頷いた。
あのこがうちに遊びにきてからだ。咲良ちゃんのおともだちのこ。おれもあのこはすき。咲良ちゃんの方がいっぱいすきだけど。
きっとろっぴはあのこがだいすきなんだ。『あいしてる』んだと思う。いっしょにいるところを見るとほわほわする。あのこといると、ろっぴはよくわらう。
「ねえ、イザくんはどんなおんなのこがすき〜?」
ソファーでつがるとじゃれ合いながら、お仕事中のイザくんに聞いてみる。今日はつがると二人で、イザくんのおうちに遊びにきたのだ。あぶないからやめとけ、ってろっぴに言われたけど、今日はつがるもいっしょだしだいじょうぶ!なにかあったらつがるからしずちゃんに連絡がいくようになっているらしい。おもしろいシステムだな〜とおもう。
さて、そんなイザくんはコーヒー片手に、ファイルを開いて驚いた顔をしていた。それからすこし考えこんで、閉じたファイルを棚におさめ、かけていた黒い細縁のめがねをはずす。かっこよかったのにもったいないな。
「どうしたのサイケ。いきなり」
「いいから答えてっ」
わくわくしながら聞いてみる。おれは、咲良ちゃんがすき。つがるは、咲良ちゃんの妹がすき。リンダくんにもみかてんくんにも、すきなこはいる。つぱちんはどうかな、わかんないや。ろっぴは都ちゃんがすきで、じゃあおれたちのオリジナルはどんな子がすきなんだろ?
人の好みも、影響を受けているのだろうか。
「人間なら、誰でも好きだよ」
「そうじゃなくってー!」
「はいはいわかってるよ。そうだな、俺個人として女の子の好みを言うなら、」
「ふんふん」
「顔は咲良ちゃん」
「…………」
やっぱり多少は影響受けてたんだ……。なんとなく、ちょっぴりショックだ。つがるが慰めるように俺の頭を撫でる。うん、うん、だいじょうぶ。
「ただ性格はもう少し控え目な子がいいかなぁ」
「?」
「そう、例えば」
すぅっとイザくんの赤い目が弧を描く。咲良ちゃんのすきなおとぎ話に出てくる、しましまのねこみたいだ。
彼はたのしそうに、うたうようにおれにこう告げた。
「八面六臂が今、ご執心の女の子みたいな」
「…………あ」
「どしたの?都」
友達と昼食を取りながら、私はふと思い出した。『イザヤさん』のことを。
以前別の女友達が熱心に話していた『かっこよくてすごい人』の名前が『イザヤさん』だった気がする。
他の子に「イザヤさんには関わらない方がいいよ」と言われたからその後スルーしていたのだけれど。もしかしてその『イザヤさん』と同一人物なのだろうか。
確かに、ろっぴくんはすごくかっこいいしすごくやさしいし、でもちょっとかわいいなって思うところもあったりして、いっしょにいると楽しいけど……
「…………!」
「なに?今度は赤くなったりして。風邪でもひいたの?」
「や、その……ちょっと、好きな人ができてだね……」
「爆笑していい?」
「私どうしてあんたと友達やってるのかな」
気が合うからでしょ、と彼女は淡々とパスタを口に運ぶ。
そういえば、彼女も「イザヤさんには関わらない方がいい」と忠告した人間の一人だ。彼女なら、『イザヤさん』のことを知ってるかもしれない。
「ね、ね、そんなことよりさ、ずっと前に聞いたイザヤさんの話なんだけど……」
「イザヤさん?やめてよ、名前出したら出てきちゃうじゃない」
「どんだけ都市伝説なの……」
なんだかずいぶんな言われようだなぁと思う。
私に『イザヤさん』の話をしてくれた子は、彼を神様みたいにすごい人なのだと話していたのに。人によって捉え方は様々だということなのだろうか。しかしこの落差はひどい。
「で、アレがなに。まさか恋の相手ってアレ?あんた死ぬわよ」
「どっかの占い師みたいなこと言わないでよ違うよ……。別にあまり関係はないことなんだけど、ちょっと気になるなって」
ふぅん、と彼女は目を細めた。空になった皿に、フォークをからんと投げ出す。ぐいっと水を煽って一息つくと、ぽん、と私の肩に手を置いた。
「そうね……私にとってはアレのことこそそんなことだわ。あんたの恋の相手って?どんな人?」
さっきあれだけ冷めた目で見てたのに、どうして今こうして爛々と輝かせてんのこの人。っていうかはぐらかされた気がするんだけどどういうことなの……。
「…………」
「どうした六臂。上の空だな。都さんのことか?」
「はぁ!?べ、別に……、っ違うし!何言ってんのさツパチン!!」
「……お前、素直だなぁ……」