先日、先輩の家に泊まりました。とてもかっこいい男の子たちにかこまれて。
「でね、みんな都ちゃんのこと相当気に入っちゃったみたいで。だからまた遊びにきてね」
「はぁ」
にこにことうれしそうにその先輩は話す。また遊びにきてね、か。私は全然構わないのだけれど、彼、ろっぴくん?はいいのだろうか。
たぶん私はあの人に、あまりよく思われていない気がするのだ。だってかなり必死になって止められたし。なのに結局無理矢理泊まって、ご飯がおいしいからってちょっとワガママまで言ってしまったし(朝食のパンケーキとか)。
なんだか、気まずくて行きたくても行けないような。
「そうそう、うちね、引っ越すことに決まったんだ!」
「へ?」
そういえばこの前遊びに行ったとき、そんなことを言っていた気も……。でもこんなあっさりと引っ越しが決まっていいものなのだろうか。お金は?部屋は?先輩、バイト代だけで生活はカツカツだと先日嘆いていなかっただろうか。
「あの子達の元の主人を脅……いや、都合つけてくれたみたいで」
脅したんだ……。
穏やかに笑う先輩の笑顔に冷たいものを見つけて、私はあはは、と愛想笑いで返した。恐らくその元の主人と彼女はあまり仲がよろしくないのだろう。
しかしこんなに早く都合をつけるとは、相手は相当お金を持っている人間なのだろうな。先輩と彼らの会話の中でそれらしき名前を聞いた気がする。イザヤ、といっただろうか。聞き覚えがあるが思い出せない。こんな珍しい名前、普通は忘れられないだろうに。
「前のところからそう遠く離れてないところなんだ。ほらあそこの商店街の人たちとも仲良くなって、離れがたくなっちゃってね」
「そうなんですか」
「ろっぴもあのまちが気に入ったみたいだし」
どき。
彼の名前を聞いた途端変に心臓が音をたてた。都ちゃん?と首を傾げた先輩が私の顔を覗き込む。
だから、私はあの人にはちょっと会いにくいというか苦手というか。だって明らか嫌われてんだもんよ。改めて考えるとショックだなこれ!
「大丈夫?具合でも悪いの?」
ドッドッと大きく鳴る心臓、吹き出す汗。キリキリと彼女の方を向いて「大丈夫デス」とか細い声で返した。見るからに大丈夫じゃないだろ自分。
心配そうに私を見上げる彼女に、本当に大丈夫ですから!と、そう言ってその場を走り出した。ああ、私は一体何をしているんだ。
「っていうことがあったのよ」
家に戻り、膝で眠るサイケの頭を撫でてやりながらそう話す。向かいに座るろっぴはばりっとお煎餅をかじって「ふーん」と気のない返事。ちらとろっぴを見下ろしたツパチンが、僅かに口元を歪ませて笑った。私にはわかる、これは何か悪いことを考えている笑顔だ!
「そういやお前、この間あの人が泊まることえらく渋ってたな」
「当たり前。女の人を、こんな野郎ばっかのところに寝かせらんないでしょ?」
「え、私は?」
「それじゃないのか?」
「おい お前ら スルーすんな」
「何それ」
「お前に嫌われてると思ってたりしてな」
「……!?」
からん、とお煎餅がテーブルに落ちた。臨也さん似のきれいな顔が、大変ぶっさいくなことになっている。
……どゆこと?
「だいすきな咲良ちゃんの同居人にきらわれてるなんてことになったら、そりゃあきまずいよねぇ……」
もぞもぞ動いたサイケが、ぐしぐしと目をこすりながら起きた。ああ、なるほど……っていうかサイケ起きてたのか!
「あとたぶん、おれの勘だけどそのこ……」
そこまで言いかけたサイケはちら、とツパチンを見た。目を伏せた彼は静かにうなずく。まさか……
いや、私もあの反応を見てもしかしてとは思っていたのだ。でも、私の思い違いかもしれないし、とも。しかしどうやらこの見解は私だけのものではなかったらしい。一人蚊帳の外のろっぴが眉間に皺を寄せ、不服そうに「なんだよ」と低い声を出す。
サイケが私を見た。にこ、とかわいらしく笑って、彼はこう言う
「ろっぴにはないしょおーーーーー!!!!」
「テメェェェェェェェェェェェェェェサイケェェェェェェェ」
「頼むから部屋は壊すなよ二人とも」
「いいよ壊しても、金は臨也さんに出させるし」
「咲良、夕飯の買い出し行ってくる」
「あ、うん津軽、いってらっしゃい」
「俺たちもいくー!」
「リンダ待ってっ」
「あんたたちー、お菓子は一個ずつだからねー」
「「はーい!」」