咲良さんの家に誰かが遊びにくるなんてことは滅多にない。たまに彼女の妹が遊びに来るけれど、あの子はどうも津軽がお気に入りのようで、あいつに構ってばっかりだ。
だからだろうか、珍しいお客さんに他の奴らが浮き足立っている。リンダくんもさっきからずっと話しかけているし、みかてんくんもなんだかうれしそう。サイケと津軽も、目に見えてそわそわしている。



っていうか



「あいつら夕飯の支度を手伝ってやろうとは思わないのか……?」
「滅多に客なんて来ないからはしゃいでんだろ」

赤いエプロンで人参の皮を剥く俺の隣、揃いのエプロンを着たツパチンがじゃがいもの皮を剥きながら苦笑している。そりゃ、わかるさ、その気持ちは!俺だって咲良さんの友達が遊びに来るのはうれしい。咲良さんも楽しそうだしね。
でも!この量の夕飯を作ることがどれだけ大変か!手伝ってくれるのがツパチンだけとかどうかしてるぞ!俺だって外での咲良さんの話とか聞きたいのに!

「あの、」
「ん?」

だん、と苛立ち任せに人参を切った(というか包丁を叩きつけた)ら、後ろから声をかけられた。おっかなびっくり、って感じで立っていたのは、都さん。しまった、怖がらせてしまった?

「ご、ごめんなさい、私もお手伝い、します……」
「え?あ、ああ、いいんだよ、お客さんは座ってて?」
「でも」
「そうそう、ろっぴさんとツパチンさんに任せとけばだいじょーぶだってー!」
「お前は手伝えリンダ」
「やー」

ツパチンに襟首を掴まれ、ぷらんとぶら下がりながら彼はキッチンにやってきた。みかてんくんもそれを追ってやってくる。これ以上はさすがに狭くなって動きにくくなるから、サイケと津軽にはおとなしくお客さんの相手をしていてもらおう。
気遣ってくれてありがとう、そう言って笑ってみせた。都さんは一度瞬きをして、それから恥ずかしそうにはにかんだ。ああ、なんだこの人、笑うとけっこうかわいいんだな。

座ってて、とソファーを指す。咲良さんとサイケと津軽が話をしていた。お客さんがいる前ではさすがにあまえっコにはならないらしい、サイケも成長したな。いい傾向だ。
一人で満足しながら調理を続ける。ところで年少組が大騒ぎしながらキッチンをうろちょろしているんだが、夕飯は今日中に無事作り終わるんだろうか。





「いただきます!」

おっきな器に盛られた肉じゃがに、一斉に箸が伸びる。都さんは慣れないその光景にぽかんとしていた。ちょうど隣に座った俺は、そんな彼女の顔をひょいと覗き込んでみる。

「大丈夫?」
「えっあっはぁ。……賑やかですね……」
「まあね。こんだけ男ばっかいればねー」

肉の奪い合いなんかしてるリンダくんとみかてんくん、嫌いな人参をよけて津軽とツパチンに注意されるサイケ。咲良さんだけがマイペースにもくもくとご飯を食べている。今日もおいしそうに食べてくれてるなぁ。うれしい。

「私一人暮らしだから。こんな風に賑やかなご飯、久しぶりです」
「へえ。じゃあ時々遊びにきなよ。咲良さんも喜ぶし、きっとあいつらも喜ぶよ。」

言ってやれば都さんはうれしそうに笑ってくれた。
すると、俺たちのやり取りを見ていたらしい咲良さんがかくんと首を傾げた。なぜだろう、なんだかろくなことを考えていない気がする。にんまりと笑った彼女は、箸を置いて両手を合わせた。

「そうだ、都ちゃん今日うちに泊まっていったら?」

おい 待て この狭い部屋にこれ以上どこに人の寝る場所があると思ってんだ。
現在寝室では、咲良さんがベッドに寝て、その下でサイケと津軽が布団で寝ていて。別室では俺とツパチン、リンダとみかてんくんがそれぞれ同じ布団で寝てる。
ああ、そろそろ引っ越したい。臨也くんもこれだけ人を送り込んでんだからもうちょい広い部屋を用意してくれたっていいと思う。生活費もさぁ、ケチんないでどんどんくれよもう咲良さんのバイト代+αでやってけると思ってんのこの生活。

「無理です」
「あらどうして」
「場所がない」
「私と一緒に寝たらいい」
「えっずるい」
「サイケこら」
「あの、私今日は帰りますから」
「やだやだ都ちゃん泊まってって?」
「女の子に窮屈な思いさせらんないだろ!」
「紳士だなろっぴ」
「当たり前だ」
「あ、ありがとうございます」
「だから今度臨也くんに新しいおっきい部屋を用意してもらえるよう交渉してだな」
「わかった今電話する」
「咲良ちゃん行動はやーい」
「「はやーい」」
「ろっぴがなんと言おうと都ちゃんには泊まってってもらうからね!」
「都さんの都合も考えろ!!」
「いや、私は暇なんで大丈夫なんですけど」
「アンタも断れよ!先輩のわがままに付き合ってやんなくていいんだぞ!」
「え、でも滅多にない機会だし」
「ねー」
「いや、今日じゃなくていいだろう?近いうち引っ越すから、絶対引っ越すから」
「じゃあ〜、私とサイケが一緒に寝て津軽とツパチンが一緒に寝てろっぴと都ちゃんが一緒に寝たらいいよ!」
「どうしてそうなった!そしてなんの解決にもなってない!」

どうあがいてもお泊まりは決定らしい。がくんとうなだれた俺の肩を、申し訳なさそうに都さんがぽんと叩く。
いや、アンタがそんな顔をする必要はないんだ。むしろ客が来たからって有頂天になって調子に乗ってるこいつらが反省するべきなんだ。

「明日の朝もろっぴが作ってくれるよ!はちみつたっぷりのパンケーキなの!」
「おい こら 誰が」
「そうなんですか?……じゃあ、ほんとに泊まってっちゃおうかな……」
「…………」


………………。



「し、仕方ないな。今日だけだからね!」
「「わーい」」

ぱちん、と都さんと咲良さんが手を打ち合わせる。なんか乗せられた感が否めないけれど、まあいっか。二人とも楽しそうだし。

キャッキャッとはしゃぐ彼女たちにため息をつく。ツパチンが労うように頭を撫でてくれた。俺の味方は、ツパチンだけだ……。




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