我が家に折原臨也がやってきました
「って違うわワッショイ!!!!」
「わっしょい!」
がん、とテーブルに両の拳を叩きつけた私の隣。にこにこ楽しそうに復唱した折原臨也……と同じ顔をした青年。サイケデリックドリームス。音楽ソフトを再生したらなぜかにゅるっと出てきた彼。
見た目がアレなのに中身がコレとか、折原臨也は性格設定を間違えてしまったのだろうか。この顔でいろいろとかわいいことされたらあの、幸せな気持ちになっちゃうんですけど。
「えーあの、サイケは音楽ソフトなのよね」
「うん、そだよ?」
「……歌うの?」
「うたうよ?」
とうぜん、といった顔でサイケは誇らしげに胸を張った。学芸会で立派に主役を張ったことを母親に自慢する小学生のようだ。それはともかくとして、彼は何を歌うんだろう、折原臨也が歌う姿もサイケが歌う姿も想像ができない。どんな歌を歌うかも想像できない……!
サイケならば、童謡とかそんなんだろうか。もりのくまさんとか、歌ったらかわいいな……!期待を込めてじっとサイケを見つめる。
「うたう?さくらちゃん、おれ、うたう?」
「うんっうんっ、サイケ、歌ってっ!」
「わかった!」
キュイイイ、と機械音が微かに聞こえる。ああそうか、サイケはソフトウェアなんだっけ。あんまりリアルに動いて、喋って笑うから忘れていた。
ドキドキしながら彼の歌声を待つ。一度伏せられたホットピンクの目がまた開き、彼は同じ色をしたヘッドホンに手を添えた。
★☆★☆★
ぽかん、と口を開いて私はサイケを見つめていた。
抱いていた期待はすっかり裏切られてしまった。いい意味で。
「どう?どう?さくらちゃんっ。おれ、うた、じょうず?」
機嫌良さそうに笑ってサイケは私に抱きついてきた。
童謡歌うと思っていたのに。
サイケの得意ジャンルが洋楽とか聞いてない……!
あ、いやそもそも童謡ってのも私の思い込みで誰もそんな説明とかしてくれなかったんだけどね。ええ。そういえば私『Psychedelic Dreams』の説明書全然読んでなかったわ。パソコンデスクのそばに置いたままだった白いケースを手にとって、説明書らしき冊子に目を通す。
使用上の注意とか使い方とか、書いてることは特に変わったところはない。得意ジャンルも『ポップス』とか『英歌詞もできます』とか書いていた。英歌詞も、っていうか最初からバリバリ英語じゃねーか。
最後のページをめくったとき、ひらりと何かが床に落ちた。何だろう、よくあるキャンペーンの応募用紙とか、他のソフトの宣伝用紙か何かだろうか。
「…………」
『咲良ちゃんへ☆
君のお友達にお願いして、俺がちょっぴり手を加えたこちらをプレゼントします。お誕生日オメデトー!(笑)
素敵無敵な情報屋さんより☆
PS.また一歩バアさんに近づいたね!(笑)』
ぐ し ゃ っ 。
「?さくらちゃん?」
「なんでもないのよーサイケ。それよりサイケは本当に歌が上手なのねぇ私すっごくびっくりしちゃった」
「ほんとっ?おれ、じょーず?」
「うん、上手」
「いいこ?」
「……?うん、いいこいいこ!」
「じゃあごほうびちょうだい!」
「ご褒美?」
首を傾げる私に、サイケは「うん、ごほーびっ」とにこにこしながらこちらに歩み寄ってくる。何をねだられるんだろう、バージョンアップとか?もしかしてなんか付属品買ってくれとか?やばい私お金がない、残高いくら残ってただろう。
なんてぐるぐる考えてる間に、サイケはぐっと顔を近づけていた。ちょっと待てこの距離は
「ごほうびっ♪」
ちゅっ
「…………」
「イザくんがねぇ、いいこにしてたらごほうびもらっていいんだよってゆってたのっ」
「…………」
「おれ、いいこ!」
「…………」
「あれ?さくらちゃん?」
「あ…………」
「?……あ?」
「あの ド腐れ【禁則事項です】がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「む」
「あン?どうした」
「……お腹すいたよシズちゃーん……奢るから露西亜寿司行こ」
「…………。まあ奢りならいいけどよ」