笑い声にふと顔を上げると、サイケとリンダくんが二人でゲームをしていた。津軽がお茶を入れ、お菓子の準備をしている。マスターである咲良さんはバイトでいない。今日も帰りは8時過ぎだろう。
随分とこの景色も見慣れたものだ。ソファーに座って部屋の中を見回す。

すると、ギシ、と右側が何かの重みを受けて沈んだ。顔を向ければ、いつもかけている大きなサングラスを外したみかてんくんが座っている。珍しいな、いつもならリンダくんのそばにくっついているのに。

オリジナルに程近い彼らは、いつも二人いっしょにいた。まるで本当の双子の兄弟のように。

「リンダくんのところに」
「はい」
「いかないの?」

笑って彼を指差すと、なんだか複雑な笑みで返された。なんだろう、ケンカでもしたのだろうか。
でもついさっきまで二人ともいつも通りだったはず。お昼ご飯のサンドイッチを賭けて何やら争っていたみたいだけどそんなことはいつものことだし、本気ではないことだって知ってる。
そのあとは二人でプログラムの調整をしたりくだらない話をして笑い合っていた。じゃあ、どうしたというのだろう。

「別に」
「え?」
「ケンカとかは、していませんよ。ただ、」
「…………」
「六臂さんと、二人で話がしてみたくて」

膝を抱えたみかてんくんは、俺を見上げてにこりと笑った。



俺はこの家に一番最後に来たわけだけど、よく話をするのはいわゆる大人組って言われるつがちゃんや咲良さん。サイケも一応大人組に入るんだろうけど、中身がアレだから話が合わない。そもそも出会い方にも問題があったわけだからあまり仲もよくはない。……というと咲良さんはくすくすと笑って「嘘つきね」と言うけれど。嘘じゃあないさ、俺はあいつのこと、まだ完全に認めたわけじゃないのだから。
リンダくん、みかてんくんとはまったく話をしないわけではなかったけれど、暇を持て余す子供の世話をする程度でゆっくり話をしたことはなかった。二人とも『いい子』だったから、苦手意識を持っていたのかもしれない。俺は『いい子』じゃないしね。

「いいよ。何を話そうか」

短い髪を撫でてあげると、みかてんくんはくすぐったそうに身をよじった。リアルな反応だなぁと思いながら、よく咲良さんに頭を撫でられてるサイケも同じような反応をしていることを思い出した。あいつはどこまで仕草が幼いんだ、頼むから俺と同じ顔でそういうことをするのはやめてほしい。

「六臂さんは、」
「うん」
「咲良さんのことをどう思ってますか?」
「……え?」

ひく、と頬がひきつる。心音が一瞬大きくなった気がした。咲良さんのことか、どうしてそんなこと聞いてくるんだか。

「この前、サイケさんの様子がおかしかった時に」
「…………」
「珍しく声を荒げていたでしょう」
「起きてたのか」
「あんな大きな声を出せば目も覚めますよ」

あ、でもリンダは寝てたみたいです。
人差し指を口に添えて、みかてんくんはまた笑った。

厄介な子だな、と思った。無害そうないい子だと思ってたら、そうでもなかったらしい。にこにこ笑いながら「どうなんです?」と聞いてくる。
わかってて聞いてるな、内心舌打ちをしてそっぽを向いた。やっぱり、と彼が呟く。このガキ、めんどくさい。リンダくんなんかよりもずっと。

別に、あの人に告げようとは思わない。
サイケと二人でいるときの咲良さんは幸せそうだ。彼女が幸せなら、なんて善人ぶったことは言うつもりはない。でも自分が原因でこれ以上事態をこじれさせるのもめんどくさかった。ここは大人しくして、この小さなバグが修復されるのを待つのが得策だろうと思った。
この温かい空間を、壊したくなかった。

「咲良さんには、ないしょにしててあげます」
「……そりゃどうも」
「いつか新しい恋ができるといいですね?」
「もう懲り懲りだよ……」
「あはは。僕も、いつかいい人が現れるといいなぁ」

隣で膝を抱えて座る少年はきらきらと目を輝かせる。
実は一人、彼の好みそうな女の子を知っている。ここに送られる前に、まだ開発段階の彼女を見かけたのだ。眼鏡をかけた、大人しそうな顔立ちの女の子だった。かわいかったけど。きっとあの子もそのうちここに来るだろう。
まあ、彼女のことを教えてやるのは何だか癪だから黙っていようと思う。生意気な子供にちょっとした意地悪だ。あ、そういやツパチンもそろそろ送られてくる頃かな。



さてそろそろ夕飯の支度でもするか。
立ち上がって伸びをする。買い出しは誰がいこうか、確か昨日はリンダくんとみかてんくんで、一昨日はつがちゃんだったから今日は……

「…………」

まあ、たまにはいいか。

「サイケー!」
「ん?なあにろっぴ!」
「夕飯の買い出し行くぞ。準備して」
「ええ、でも、ゲーム、とちゅう……」
「夕飯いらないの?」
「いくっ!」

ぱっと白いコートを羽織ったサイケはぱたぱた走ってついてきた。にへら、と笑って俺の服の袖を掴んでくる。
……こいつが長男などと……

「ろっぴろっぴ、今日はハンバーグが食べたいなー」
「六臂。ハンバーグなら豆腐ハンバーグな」
「俺ポテサラ食いたいっすー!」
「あ、六臂さんラップなくなってたんでよろしくお願いします」
「はいはい……」

抱きついてくるサイケを引きずり部屋を出た。もう、慣れたもんさ、こういうやり取りだって。ポン、とサイケの頭を撫でてやる。
彼はとてもとてもうれしそうに笑ってみせた。










だからさあ、俺と同じ顔でそういう風に笑ったりすんのやめてくれよ……




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