「……姉さん、これは一体どういうことなの……」
「いらっしゃい、よく来たわね妹よ」



半年ぶりに姉の部屋に遊びにいってみれば、私を迎えたのは見知らぬ男数名だった。まあ入りなさいと姉は私を招いたけれど、私は玄関で固まったまま動けない。
姉の隣にいた白い服にピンクのヘッドホンをつけた男が不思議そうに首を傾げた。妙に顔のきれいな人だ。姉ととても仲が良さそうだった。恋人だろうか。姉さんの、恋人。私の大好きな、大事な姉さんのこいびと

「おい」
「うぇっ」
「凄い顔、してるぞ」

人殺しでもしそうな顔だ。そう言って苦笑いしながら私の額を小突いたのは、白い着物に青い羽織を着た金髪の人。どうして金髪なのに和服を着ているんだろう。でかいし声も低くてこわい。彼は私に「人殺しでもしそう」と言ったけれど、実際彼の方が何人か殺してそうな気がする。
上がれ、と言われて私はビクビクしながら足を踏み入れた。姉さんはいつから、こんな複数の男性と関係を持つようになったのだろう。中に入ってみれば、姉さんの寝室で私とあまり歳の変わらなそうな男の子が二人パソコンゲームをしていた。よろよろとソファーに座り込めば、さっきの白い服の男の人と同じ顔をした黒い服の人がコーヒーを出してくれる。

ああ姉さん、私の姉さん、あなたは私の知らぬ間にこんな男たちとただならぬ仲になってしまったのですか。もしや毎晩毎晩相手を変えてベッドの中でアアヤメテ

「妄想はそこまでにしておきなさい。この子達はあんたが思ってるようなのじゃないから」
「姉さん……」

冷蔵庫からケーキを出した彼女が正面に座る。ああ、相変わらず姉さんは素敵。優しくて気も利いて、たまにそそっかしくて鈍感なところもあるけれど、私の自慢の姉。小さい頃から私は姉にべったりだった。
そんな姉さんに悪い虫がついたとあらば妹として黙っているわけにはいかない。出されたコーヒーを一口飲んで、おずおずと話を切り出した。

「あの、姉さん、その……この人たちは……」
「まあ詳しく話せば長くなるから、とりあえずざっくり説明するね。事情によりうちで預かっている兄弟みたいなものよ」

この子が一応長男ね、と隣に座ったさっきの白い服のお兄さんを指す。よろしくね!とにっこり笑った彼はどう考えても歳上に見えない。いや、黙っていれば見えなくもないけれど、行動や言動が幼いから……

「まあこの子たちのことは追々紹介するから。でもねこれだけは覚えておいてね」
「?」
「悪い子達じゃないの。私の大事な家族よ。仲良くしてね」

姉さんはそう言ってにっこり笑った。





大学に通うのに、と姉さんは3年くらい前から一人暮らしをしている。最低半年に一度は遊びにきていたけれど、男のニオイがしたことなんて今までなかった。だから今回のことはちょっぴりショックだ。知らないうちに一度にこんなたくさんの男と同居だなんて。まあ姉さんのことだから間違いとかは起こしていないだろうけど……

「おい」
「あ、はい!」

声をかけられて、私はビクリとその場で跳ねた。肩越しに振り返ると、金髪の和服の男が手に持ったメモを確認している。

「頼まれたモンはこれだけだ。帰るぞ」
「は、はい」

買い物バッグを私の手から取り上げ、その人はすたすたと歩き出す。
ただいま居候兄弟の次男と夕飯の買い出し中です。
ほんとは私一人でもよかったんだけど、姉さんが一人じゃ危ないからってこの人をつけてくれた。姉さんったら過保護なんだから優しい大好き……、
……でもこの人をつけてくれたのは、危ないからって理由だけではなかったようだ。

「……津軽さん、商店街のおばちゃま方に好かれているんですね……」
「そうなのか?」

津軽、と名乗った彼は、その威圧感たっぷりの外見にそぐわずきょとんとした顔で私を見下ろした。ちょっとかわいいとか思ったのは内緒だ。
津軽さんは商店街のおばちゃん方のお気に入りみたいで、買い物すると何かしらオマケをしてもらった。姉さんの狙いはこれだったのか。私も一緒にいて「津軽くんの彼女かい」と何度言われたことか。彼女どころか今日出会ったばかりだ。
津軽さんはそんなこと気にする素振りも見せず、挨拶されれば律義に返し、おばちゃん方の冗談やからかいもクソ真面目に受け止めるという好青年ぶり。

「……うーん、津軽さんみたいな人だったらいいかな」
「何がだ?」
「姉さんの恋人!」
「サイケがいる」
「さいけ?」
「咲良の隣にひっついてただろ」

ああ、あの白とピンクの人。やっぱり恋人なんだ……なんか子どもっぽいし頼りないし、姉さんにはあんまり相応しくないように感じるけどな。津軽さんの手前そんなことは言えなかったけれど、雰囲気的に伝わってしまったみたいだ。苦笑して彼は「ああ見えて、あいつが一番咲良のことを見てる」と言った。
まあ、今日初めて会った私にはわからない何かがあの二人の間にはあるんだろう。そう思うことで納得しておく。

「ま、顔は合格かなっ。姉さんは私と違ってかわいいし。あれくらいのイケメンじゃないとねー!」

私の言葉に津軽さんはまたしてもきょとんとする。なんだ。姉さんがかわいくないってのか。そんなこと口にしてみろ、噛み千切るぞ。

「お前だって、かわいい」

なんて構えていた矢先。
でっかい手がわしゃわしゃと私の頭をかき混ぜた。犬にするみたいに、少し乱暴に。
からかってんのかと顔を上げれば、本人は至って本気の発言のようで。



一気に顔が熱を持つ



「馬鹿じゃなかろうかッ!!!!」
「……?なんで怒ってんだ?」
「知らんッもう!!!!」

買い物バッグをひったくり、足早に姉さんのマンションに向かう。
嘘だろう、こんなのってない。恐らく私の人生で最大の失敗だと思われる。今日会ったばかりの得体の知れない男にときめくなど。

帰ったらもうあいつらのことなんか構わずに姉さんに甘えまくろう。決心したところで後ろをこっそり振り向くと、津軽さんがちょっぴり傷ついた表情で私の後をついてきていた。










え?
別にときめいてなんかいません。




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