パソコンの側に置いたままの、白いパッケージを見つめる。起動していきなりあの子が出てきた時はびっくりしたな。しかもあの折原臨也と同じ顔のだし。なのに性格は子供みたいにかわいかった。わがままで甘えたがり、放っておいたらふらふらどこかに行ってしまう。図体ばかりがでかい、小さな弟ができた気分だった。
それがはじまり。



「いじっぱり。鈍感」
「なんとでも言って」

膝を抱えてべそをかく私に、背中合わせに座ったろっぴが言葉をぶつける。さっきまでサイケとケンカしていた筈なのに、今は少し落ち着いたみたい。ろっぴは一番最後にきた、ある意味末っ子なのに、なんだか兄のようだ。
鼻をすする私にずしっと体重をかけたろっぴは、天井を仰いでため息をついた。

「もしサイケがずっとあのままだったらどうすんの」
「別にどうもしないよ。慣れるしかないじゃない」
「慣れるまで、そうやって隠れてべそかくの?」
「もう泣かないもん……」

いつになく私に意地悪なろっぴに、膝に顔をうずめて答える。彼は少しの間沈黙して、体ごと振り返り私の肩を掴んで無理矢理振り向かせた。

「じゃあ、俺が慰めてあげよっか」

赤い目がじっと私を見つめる。細い指が顎を捕らえて、くいっと引き寄せた。





かさな る





「だめーーーーー!!!!」





「「!?」」
「だめっ、だめっ、だめーーーーー!!!!」

驚きに二人して固まった。入口で肩を上下させながら私たちを睨み付けていたのは、今私の目の前にいる彼と瓜二つの顔をした男の子。白いコートに白いズボン、ピンクのヘッドホンにピンクの瞳。

「さ」
「サイケ、」
「咲良ちゃんは俺のなのー!!!!」

そう叫ぶなりどかどか部屋に入ってきてべりりっと私たちを引き剥がした。そしてぎゅうっと強く私にしがみつく。
ちょっと待っておくれ、これは一体どういうこと?さっきまでの、甘えたがりが一切なりを潜めたサイケはいったいどこに?
混乱する私をよそに、ものすごく不機嫌な顔をしたろっぴが大きく舌打ちする。次いで入ってきた津軽がサイケの肩を軽く掴んだ。咲良がびっくりしてるだろう、と。

「あっ、ごめんね咲良ちゃん、……痛かった……?」
「え?いや、」
「ほんと?よかったっ!」

言うなりまた抱きついてくる。少々の違和感は残るものの、これはいつものサイケだ。津軽を見ると彼も首を傾げている。ろっぴは肩を竦めていた。

「咲良ちゃん泣いてたの?俺のせい?ごめんね、お願いだから嫌いにならないで!」
「うぇっ?あーいや、これは、うん、大丈夫だから。嫌いにならないから」

ほんとに?ほんとに?と聞き返しながらサイケはどんどん迫ってくる。うん、うん、と何度も頷いて彼の髪を鋤くと、ようやく納得したのか彼はふわりと微笑み、

「よかった。咲良ちゃん、だいすき」

そう言って触れるだけのキスを唇に落とした。










「え?俺別に性格の書き換えはしてないけど?」

翌日、恐らくこうなった原因であろう人間にどういうことか問い詰めに行ったら。なんの悪びれもなく彼はそう言ってにたりと笑った。

「じゃあなんで一時期サイケはちょっと性格が変わっちゃったようになったんです?アンタが原因でしょう?この【禁則事項です】野郎」
「ははは、嫌だなぁ女の子がそんな汚い言葉使っちゃいけないよ!だから俺は別に何もしてないって」

尚も言い張る彼は澄ました顔で私とサイケにりんごジュースを出した。サイケは大喜びでちゅーちゅーストローをくわえ飲んでいるが、わかっているのだろうか、そのジュースを出した本人が自分に『何か』したことを。
臨也さんもりんごジュースを飲みながら、コアラの絵が描かれているお菓子をポリポリ食べている。顔は真剣だけどお前、その組み合わせは……小学生かよ……

「まあ、メンテナンスの終了時に何か問題でも起こったんじゃない?治ったってことは自己修復機能が働いたんだろう、サイケはほんと俺の予想外のことばかり起こすから面白いなぁ」
「?イザくん、俺いい子なの?」
「うん、サイケはいい子だよ。だからごほうびにちゅーしてあげよう」
「は?いらない」
「…………」

きっぱりあっさり笑顔でお断りされて臨也さんが固まった。
まあそれが普通の反応よね。っていうか自分と同じ顔した人間にキスして楽しいか?やっぱり臨也さんってナルシ……あー、うん。……自己愛強いなぁ。

「だって咲良ちゃんにしてもらうもん!」
「ゴホッゴホッ!」

サイケの予想外のキラーパスに、ジュースが変なところに入った。なぜ私に回ってきた。ちゅーしてほしいなら臨也さんにしてもらえばいいのに。あんなこと言ったりはしたものの、ちょっと見てみたい気もするし。

…………あ

やっぱり嫌かもしんない。サイケが自分以外とキスするの。

「ね、咲良ちゃん」
「ん?」

もやり変なものが一瞬渦巻いた胸を抱えていると。
サイケが私の服の裾をきゅっと摘まんだ。上目遣いに私を見つめる、微妙に潤んだホットピンクの目。形のよいふっくらとした唇がゆっくりと動く。

「…………して……?」





「はい、そこまで!続きは家に帰ってベッドでゆっくり、ねっ」
「「…………」」

どうしてこの人は、こう顔に似合わず下世話なのだろう。冷めた目で私は彼を見つめたが、私の服を摘まんだままだったサイケはにっこり笑って「うん!」と元気よくお返事した。どういうことなの。

「それじゃーそろそろ行こっか、咲良ちゃん。つがるたちも待ってるし!」

サイケはそう言ってぴょんと立ち上がる。

あれ?

なぜだろうか、あんなに幼く感じていた彼のことが、今は少し大人びて見える。また、何かした?と臨也さんを振り返ったけれど、あの人はただ静かに微笑んでいるだけだった。

白い指先が私に伸ばされる。



「帰ろう、咲良ちゃん」










誕生日プレゼントに友人が買ってくれたのは、『Psychedelic Dreams』という音楽ソフト

の、はずだった。



もしかしたらあなたの元にも、友人を通して怪しい情報屋から怪しいソフトウェアが届くかもしれません。このようなことにはならないよう、得体の知れぬプレゼントにはくれぐれもご注意下さいませ。



「咲良ちゃん、だいすきだよ!」
「わかったから道の往来でキスしないで……!」




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