サイケのメンテナンスがしたい、という臨也さんの言葉から、私はサイケを連れて彼のマンションに向かっていた。何故か、

「むー……ろっぴ!さくらちゃんにくっつきすぎ!離れてよ!」
「別に咲良さんはお前だけのじゃないし」
「…………」

ろっぴもついてきたのだが。ろっぴ曰く、「咲良さんとサイケだけじゃ心配すぎるから」らしい。私はそんな心配されるほどドジっ子なのだろうか。やーんさくらドジっ子、テヘッ☆

…………うん、ないな。

とにかくこのクソ暑い中、私は眉目秀麗な青年を両方にぴったりとくっつけて新宿の街を歩いているというわけだ。周囲の視線が痛い。きっとある人は「イケメンな双子に挟まれてるうらやましいなぁ」と思い、ある人は「折原臨也が殖えた」と思っているのだろう。いずれにせよ私が思うことはただひとつ、「めんどくさい」ということだけである。

「やだやだろっぴ、さくらちゃんから離れてー!」
「サイケうざい」
「!?」
「ふん」
「あーうざくない、サイケはうざくないから。泣かないのー」
「咲良さんサイケに甘すぎ」
「ろっぴもサイケのこといじめないでよ……」

はあ、とため息をつき足を止める。目の前にそびえ立つ高級マンション。この子達を預かってから、ここに来る機会も増えたなぁなんて思いながらそれを見上げた。





「いらっしゃい。さ、入って入って」
「おじゃましまぁす!」
「お邪魔します」

ぞろぞろ入っていくサイケ、ろっぴ、中に促す臨也さん。こうも揃うと圧巻だな。クルリちゃんとマイルちゃんもいたら完璧なのに。臨也さんは嫌がるだろうけど。

「じゃあサイケはメンテナンスするからこっちにおいで」

臨也さんがパソコンのあるデスクにつきサイケを呼んだ。はぁい、とかわいらしく返事をしてサイケは彼の元へいく。しゅる、とパソコンから伸びたコードがサイケと繋がって、黒い縁の眼鏡をかけた臨也さんはパチパチとキーボードを叩き始めた。
サイケは大人しくなり、目を伏せ顔から表情が消える。これがメンテナンスなのだろうか、初めて見るから私にはよくわからない。

「それにしても六臂まで来るとは思わなかったなぁ。元気だったかい?」
「まあ、おかげさまで」

脱いだコートをソファーにかけ、ろっぴがにこりと笑う。そういえば、サイケは臨也さんと仲がいいけどろっぴと臨也さんはどうなんだろ。

「そっちの生活はどう?」
「楽しいよ。サイケ以外は」
「ははっ、なんだかんだ言って君だってサイケのことかわいがってるんだろ?」
「…………」

なにこれ居心地わるっ。臨也さん×2だと思うとすごい居心地わるっ。
二人の仲は別に悪いというわけではなさそうだけど、一緒にいる人間にとっては精神的によくないとみた。まあ人間によるだろうが。

さて、メンテナンスとはどれくらいの時間が経つのだろう。できれば今日中に帰りたいものだ。過保護な家族たちが私の帰りを待っている。リンダが、帰ってきたら一緒にネトゲやりたいって言ってたな。みかてんくんも歌見てほしいって言ってたしー……

「そういえば、なんでサイケだけメンテナンスなの?」
「ん?」

思い出したようにろっぴが尋ねる。キーボードを叩いていた手を止め、頬杖をつきながら臨也さんはにんまりと笑った。

「この前に来たとき、咲良ちゃんからサイケの話を聞いて、『あ、これはメンテナンスが必要かな』って思ったからさ」
「……?え、……あれ?」
「あれだよ」
「咲良さん何言ったの」
「ええと……」

サイケがね、と説明しようとした矢先、ウィィ、と音がしてサイケが目を開いた。
どうやらメンテナンスは終了したらしい。徐々に目に光が戻っていく。臨也さんがコードを取り外すと、いつも通りのサイケがぴょんぴょんと跳ねながら私たちのところにやってきた。

「咲良ちゃん咲良ちゃん!ただいまー」
「あ、おかえりサイケ。大丈夫?どこもなんともない?」
「?うん、平気だよ?」
「…………」

ろっぴがスゥ、と目を細めてサイケを見つめる。またケンカでもふっかけようとしているのだろうか。

「言語システムも少しバージョンアップしておいたからね」
「あ、はぁ。ありがとうございますー」
「咲良ちゃんー」
「はいはい」
「…………」
「?ろっぴ?どうかした?」

さっきから黙ったままのろっぴの顔を覗き込む。すると、急に彼は私の右手を掴んで、勢いよく自分の方へと引っ張った。

「へぶっ」

強かにその胸に鼻を打ち付ける。おやおや、と臨也さんがからかい混じりの声を上げた。
文句を言おうと顔をあげたが、しかし、ろっぴのその表情に何も言えなくなる。ろっぴは恐ろしいくらいに無表情だった。

「サイケ」
「?なぁにろっぴ」
「これ見て何か思わない?」
「何かって?」
「…………。質問を変えよう、サイケ」
「うん」
「今の俺と咲良さんの状況見て、なんて思う?」

この子ったら、いきなり何を言い出すのだろう。でも、確かにその違和感は私も少し前から感じていた。
いつもなら、前のサイケなら、こんなの見たら、





「ろっぴと咲良ちゃん、すごく仲良しなんだね!」






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