「サイケ、どうして自分が生まれたのか、考えたことはあるかい」

ソファーにすわり、てきとうにテレビのチャンネルを回していたろっぴがおれにきいてきた。ろっぴはまた、おれにいじわるなことを言うつもりなのだろうか。だまってろっぴを見つめていたら、気づいたろっぴがうすく笑った。「別にもうお前の存在を否定しようだなんて思ってないよ」と言った。さくらちゃんがかなしいおもいをするから、おれをいじめるのはもうやめたんだって。なんだかシャクゼンとしない理由だ。

「俺もまあ、一応は音楽ソフトとして作られた存在だ。イザヤくんが手を加えてこんな形を取っているがね。性格だって精巧に造られて、さてイザヤくんは一体なんのために俺たちを造ったのか?」
「…………?ええと……」
「そして一体どうして、咲良さんのところによこしたのか。お前は考えたことがあるかい、サイケ」

ろっぴの言葉にまただまりこむ。そんなこと、いちども考えたこと、なかった。おれはここにきて、さくらちゃんといっしょにいて、だいすきな歌をうたって、増えた家族とずっとたのしくすごしていくのだとおもっていた。コンキョもなくただばくぜんと。
だからろっぴの言った言葉はおれにとってはあるいみショウゲキで、そう、おれはじぶんが生まれたイミなんてもの、かんがえたこともなかったのだ。

――これが『完成品』と『失敗作』の違いか

でも、ひとつだけ。ろっぴにひとつだけ、言っていなかったことがある。おれがまださくらちゃんのおうちに届くまえのはなし。
見た目ばかりがそっくりで、性格は似ても似つかないおれを見たイザくんはまんぞくそうにわらっておれのほっぺたを撫でた。「君はこれでいい。君だからこそ、俺はこれをあの子に送ろう」と言っていた。そのときはなんのはなしだかよくわかっていなかった。でもろっぴにいろいろ言われたとき、おれをここにつなぎ止めたのはこのことば。おれは、おれだからさくらちゃんといっしょにいるんだって。

だけどイザくん、おれがいるのにどうしてろっぴまでさくらちゃんのところに届けたの?おれいやだ、さくらちゃんがろっぴに取られるの。つがるとか、リンダくんとかみかてんくんはへいき、だけど、ろっぴはいや。いつかきっとおれからさくらちゃんをとりあげる。

だから、いやだ。

「おれ、しらない」
「ん?」
「なんでイザくんがおれのことをつくったかなんてしらない、かんがえたこともない」
「……だよねぇ。さすがだよサイケ」
「でも、」

嘆息したろっぴを見据える。彼もまた俺を見上げて笑っていた。
バカな俺だけど、導き出したこの答えはきっと間違ってはいないはずだ。胸を張って言える。



「おれが生まれたのはきっと、さくらちゃんといっしょにいるためだよ」



ふしぎだなぁ、さくらちゃんのことを考えるとむねにぽっとあかりが灯るの。あったかくてやさしいきもちになるよ、だからやさしくしたくなるよ。わらっていてほしくなるよ、たくさんたくさん、だいすきって伝えたくなるよ。
こんなプログラムはなかったはずなのにおかしいね、だけどぜんぜんわるい気はしない。もっとこんなプログラムが増えたらいいのに。

「……ふーん、そっか。……やっぱりお前は『失敗作』だな」
「っ、な……、」
「バーカ、いい意味だよ」

立ち上がったろっぴがおれのあたまをぽんとたたく。しっぱいさく、なのにいいイミってどういうことだろう?やっぱりおれはばかだからわからない。ろっぴの言うことはあいかわらずムズカシイ。
ハテナをとばすおれをおいて、ろっぴはキッチンに行ってしまった。もうすぐさくらちゃんがおうちに帰ってくる。かいものに行っていたつがるとリンダくんとみかてんくんも帰ってくる。ろっぴとふたりは気まずくってつまんない。はやくみんな帰ってこないかな。

「サイケ」
「ふあー?」
「ココア飲む?」
「飲むっ!」










家に帰るとサイケとろっぴがなんか更に仲良くなっていた。私のいない間にいつの間に……。眉目秀麗が二つ並ぶ様は見ていてとてもいい気分なのだが、寂しいぞこれは。なんだかろっぴにサイケを取られたみたいで。

「……津軽ー……」
「どうした」

買い物から帰って、下二人と遊んでいた津軽(あの二人ったら津軽の腕にぶら下がってぐるぐる回ってる……!ちょっと楽しそう)に後ろからひっつく。ぐす、と鼻をすすると津軽から離れたリンダとみかてんくんがぴとりと私にくっついた。

「ちょっ、どーしたんだよ咲良ちゃん!ほ、ほら泣くなって……」
「嫌なことでもあったんですか?あの、僕たち話聞きますから!」
「あ、ありがとっ……あのね……サイケが……」
「「サイケ?」」

指差すと三人は一斉にサイケ……と、一緒にいるろっぴを見た。理解したらしい津軽が、「ああ……」と声を漏らし私の頭を撫でてくれる。

「構ってほしいなら自分から行け。あいつなら喜んでお前の方に行くだろうからよ」
「でもね、サイケ、ろっぴと楽しそうなの……寂しいよう」
「じゃあ僕たちがろっぴさんに遊んでもらおっか」
「えっ」
「嫌なのリンダ?さくらさんが、寂しい思いしてるのに?」
「うっ……ううー……」





まあ結局、サイケが「みんなであそぼー」って言い出して、六人でトランプ大会を始めることになったのだけれど、それはまあまた別のお話。




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