『宮守さーん、お届け物でーす』



その日私の手元に届いたのはやはりというかなんというか、音楽ソフトが二枚。差出人の名前は見覚えのないものだったが、絶対にあいつだ。あいつに違いない。
パソコンを起動してあとのことを津軽とサイケに任せ、私は部屋を移動した。携帯を開き、できればあまり呼び出したくはなかったアドレスを画面に映す。ああ、頭が痛い。これ以上部屋が狭くなるのはごめんである。しかも二枚ということは必然的に増えるのは二人ということ。五人で生活できる余裕などないというのに。

『もしもしー?』
「もしもしー?じゃねーよどういうことです、これ」
『なにが?』
「とぼけないでくださいよ!」
『アハハ、よく俺の仕業だってわかったねぇ』

せっかく適当に名前と住所考えて書いといたのに、と電話の奥で彼が笑う。ほんとにもう、どうしてくれんだこのやろう。あの二人の面倒だけでも大変……いや楽しいけど。二人ともすごくいい子だし。しかしそれにも限度というものがあってだな……。

頭が痛い、今度は誰の姿に似せてきたのだろう。岸谷先生だろうか、門田さんだろうか。はたまた都市伝説の首無しライダーだろうか。まったく知らない人間の姿ならば、私の心労も減るというものなのだが。

『今回はね、黄巾賊の将軍とダラーズの創始者の姿を模してみましたー』

彼の言葉に首を捻る。黄巾賊の将軍って、ダラーズの創始者って。

私は会ったことも見たこともないのだが。

私はこの優秀な情報屋さんと違い裏社会に精通しているわけでもないので、そんなカラーギャングのトップの顔など知るはずもなかった。そもそも、こいつがダラーズの創始者と顔見知りだということ自体初耳だった。そう話すと彼はあっさり、『俺もダラーズだし。相談役みたいなもんだし』と言ってのけた。それほんとかよ。

しかしそんな、カラーギャングのトップ(の姿を模した音楽ソフト)が二人も私の部屋に来たとなれば、ますます部屋の中がむさ苦しくなるのではないか?津軽はその二人の面倒も見てくれるだろうか。
正直私一人の手には負えないということは目に見えているので最初から頼る気は満々だ。出来れば、サイケにも協力してもらえたらありがたい。一応彼がここで一番の古参なわけだし。

『まあ、二人とも悪い子達じゃないからさぁ。かわいがってあげてよ』

じゃあね、と私の返事を聞くこともなく彼は電話を切ってしまった。ちくしょうあのクソッタレ、今度会ったら津軽に殴っていただこう。
ぶちぶちと文句を漏らしながら部屋に戻る。何やら賑やかなのは気のせいだろうか?
パソコンの前には私が譲り受けた音楽ソフトたち。楽しそうに笑うサイケに、真剣な顔をして画面に向かう津軽に……

「…………あれ?」
「ん?」

どこかで見たことのある、茶髪の少年。

「…………」
「…………」
「……き」
「はじめましてマスター!今日からお世話になりますリンダです。いやーこんな麗しいお姉さんが新しいマスターだなんて、俺は幸せ者だなぁ!これからよろしくお願いしまっす☆」

流れるように歯の浮くセリフを吐きながら恭しく私の手の甲にキスをする。
……おい、私はこの子を見たことがあるぞ。四月くらいに池袋の公園で、私はこの子にナンパされたぞ。来良学園の制服を着た男の子だった。つまり高校生。しかもそのときも確かこんな調子で声をかけられ……

「おい、もう一人。起動したぞ」

呆然としている私をよそに、津軽が静かに告げる。お、来たな、と楽しそうに告げたリンダくんが画面に顔を向ければ。



「…………あの、ここは……」



おとなしそうな男の子がちょこんと。そこに立っていましたとさ。

「みっかてーん!」
「わぁわぁみかてんくん久しぶり!」
「うわ、リンダ、サイケさん……」

抱きついた二人を受け止め損ね、みかてんと呼ばれた少年はしりもちをつく。この子も見たことがあるな、そうだリンダのモデルになったであろう少年にナンパされたとき、隣に立ってた男の子……

津軽が柔らかく微笑んで、新入り二人の頭を撫でている。どうやらあの二人の面倒も彼に頼んでいいらしい。やはりむさ苦しくなった気がするが、まあ若いしかわいいし良しとしよう。あれ?そういえば私、何か忘れてるような気がする。なんだっけ。

「さくらちゃん!」
「あ、な、なあにサイケ?」
「二人ともおれのおともだちなんだ。なかよくしてね?」
「あー、うん。よろしくね、リンダ……に、みかてんくん?」
「よろしく!」
「よろしくお願いします」

軽い挨拶をして、私は一度部屋を出た。とりあえず親睦を深める目的も兼ねてお茶でも淹れようと。するととてとてと後ろをサイケがついてきた。私の手を引っ張りそこに引き留める。どうしたんだろう、向こうでお友だちとお話してればいいのに。お茶の準備なら、私でも一人でできるのに。

「さくらちゃんさくらちゃん」
「なあに、サイケ?」
「おれのおともだち、いっぱい来たよ」
「そうね。サイケはお兄ちゃんなんだから、これからもっとしっかりしなくちゃね」
「…………」
「?」
「おれ、さくらちゃんの、何番目?」
「え?」
「……なんでもない!おてつだい、するね」

にこりと笑って、サイケがキッチンに向かう。
何番目って、どういう意味だったのだろう。何番目もなにも、私にとってはみんな大事な家族なのに。音楽ソフトが家族っていうのもまた、なんだか寂しい気がするけれど。




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