「正くん臣くん、ご飯できたからお皿出してー」
「「はあーい!」」
あれから数日。
二人は頻繁に私の部屋を訪れるようになった。最初は私も拒んでいたのだが、彼らが聞く耳を持たないので次第に諦めていった。最近では、なんとなくだがどちらが兄でどちらが弟かわかるようになったので、兄の方を『正くん』、弟の方を『臣くん』と呼ぶようにしている。
二人は学校帰りにここに来ることが多かった。初めは私が帰るまで私の部屋の前で座り込んでいたが、ご近所さんの目が気になったので私は彼らに合鍵を与えた。幸い、物取りをするような非行少年たちではなかったために、何かが部屋からなくなるという事態にはならなかった。
私の部屋にきて、何をするでもなく二人は私にくっついていることがほとんどだった。両サイドからくそ寒い愛の言葉を吐いたり、ひたすら抱きついてすりすりしたり、膝枕をねだってきたりと。
そのまま泊まっていくこともあったし家に帰ることもあった。難しいお年頃なんだろう、私が高校生の頃だってそういうことは多々あった。家に帰りたくなくて先輩の家に泊まって、一晩飲み明かして翌日二日酔いで全員欠席。…………あれ、今とあんまり変わってなくね?
「はいよー砂羅さん特製アラビアータだよ」
「おおーうまそう」
「「いっただっきまあす!」」
元気よく両手を合わせた二人に、よく噛んで食べなさいよーと声をかけ、私は洗い物を始めた。食べ盛りの子にご飯を作ってあげるのは、楽しい。もしかしたら将来私は、いいお母さんになるのかもしれない。
一気に二人も弟ができたような、そんなくすぐったさを感じながら私はクスクス笑った。
この子達が遊びにくるようになってから、うちにはものが増えた。二人分の食器に二人分の歯ブラシ。なぜか着替えまで持ち込んで、用意周到というかなんというか。ここをホテルか何かと勘違いしてるんじゃないかと思うほどに。
でも実際私も楽しかったし、嫌なことがあっても二人の話を聞いていたらあっさりと忘れられた。お酒の量は確実に減っていたし、従兄弟には「最近楽しそうだな」って嬉しそうに言われた。
うん、楽しいよ。すごく楽しい。正くんも臣くんも優しくて、毎日が楽しいよ。きっとこれが私が本当に欲しかった幸せなんだろうと思う。
「砂羅さんおかわりー」
「え、正くんもう食べたの」
「俺もおかわりー」
「……高校生、すごいな……」
そういえばあの人たちも掃除機みたいにガバガバもの食ってたなぁと思いながら皿にまた盛り付けるパスタ。二人を見ていたら私もお腹がすいてきた。
「私も食べるー」
「……え、砂羅さんそれしか食わねぇの?」
「?うん」
「いやいやいや……もっと食え!そしてふくよかなボディで俺たちのソウルを包み込んでくれ!」
「ああうん、黙れ」
一回り小さなお皿に盛り付けたパスタを見て、正くんも臣くんも驚いていたようだった。でも私にはこれくらいが普通だったし、何より……食べ盛りの君たちと一緒にされるのは心外である。
どうしてこれだけ食べて太らないのかね、若さかやっぱり。うらやましい。一言で一蹴された双子はぐすん、と鼻を鳴らしながらフォークにパスタを巻き付けていた。
からいんならお水あげようか。頭から。
ちくりと意地悪を言ってみれば、いいいいいらないっ!と大げさに拒否された。ふふふおもしろい。
「でもさー砂羅さんはマジでもっと食った方がいいと思う」
「うん。そのうち栄養失調とかで倒れるぞー?」
「大丈夫だって今までも問題なく生きてこれたんだし。っていうか君たちは、何か、私のおかんですか?」
「「マイスウィートハニーの体調を心配するのは、当然のことだぜ?」」
「ははっ、そしたら二人とも世界中の女の子の体のこと心配しなきゃだね」
「痛いとこ、突かれた」
「でもそんな砂羅さん、ラブっ!」
あー○○ラブとか、昔そんなこと言ってた先輩がいたなぁ、なんて。先輩方元気なのかな、何人かは名前だけ聞くけど。
卒業以来、まともに会ってないなー
「砂羅さん?」
「ああごめん。なんでもないよ」
「俺たちがいるってのにぃ」
「他のこと考えちゃヤーダ!」
「…………はいはい」