足元がおぼつかない。頭がふらふらする。でもどうにか、今日は意識を保ってる。大丈夫。
「………ほんとに大丈夫かよ」
「ああほら、ぶつかるって!」
「うー……」
私の腕を着かんで、二人はどうにかまっすぐ歩かせようとする。でも、視界はぐらぐら不安定で、まっすぐ歩くことができない。いや、でも大丈夫。この状態なら一人で帰れるはずだ。
そう主張しても二人は許してくれなかった。一人で帰ったら痴漢が、変質者が、とか言いながら腕を取りマンションの方へと引きずっていく。
大丈夫なのに、呟くたびに「「大丈夫じゃねぇっての!!」」と怒られた。……高校生に怒られるとは情けない。
情けなさに泣けてきて、またぐすぐすと鼻を鳴らし始める。顔を見合わせた双子は、ぎゅっと両側から私を抱き締めた。
「ごめんごめん、怒ってねぇよ?」
「だから泣くなって。ほら、行こ?」
「ん、……っうぇ」
二人に支えられるようにして、通り抜けるマンションのエントランス。エレベーターに乗り込むと、ぐんと上に上がる感覚に少し気持ちが悪くなった。
よろめいたところを、一人が支える。これは、兄か弟か。どっちだ。大丈夫?って声をかけてきたのは?同じ顔の少年が二人。私の顔を覗き込んでいる。
どうにか吐き気を飲み込んで、大丈夫、と答えた。
エレベーターが四階につくと、私の部屋を覚えていたらしい二人は躊躇うことなくそこへと向かった。鍵、と一言だけ言われて、私は薄いコートのポケットから銀の丸い鈴がついた鍵を渡す。
中に入ると一人が電気のスイッチを押した。一人は私に靴を脱ぐように言う、けど。そこでもう意識は朦朧とし始めた。ふらふらしながら靴を脱いで、そのまま玄関に倒れ込む。
「うわ」
「あーあ、だから言ったのに」
飲みすぎるなってさ。
これじゃあ前と同じ展開じゃないか、困ったように彼らは笑う。
それでも二人とも優しくて、水飲む?とか一人で着替えられる?とかシャワー浴びる?とか尋ねてくる。それに首を縦横に振ることで答えて、どうにかたどり着いたリビング。なみなみ水の注がれたコップを渡されたので、一気にそれを煽った。少しだけ、頭がすっきりしたような、気がする。
「仕方ないな、今日も泊まってくかー」
「あ、んじゃ今日も砂羅さんをサンドできるんだな?」
「「ラッキー」」
「……いや、今日は帰っていいよ」
だいじょうぶ、ろれつの回らない状態でなんとかそう伝える。が、しかし、正臣くんたちはそんな私の言葉なんかまるで聞こえてなかったかのように振る舞い。シャワー浴びてくるー!と二人仲良くキャッキャしながら風呂場に駆け込んでいった。
いや……家主の言うことは聞こうぜ青少年……
テーブルにぐったりとうなだれながら、本日の反省。
イラッときたからってワインがぶ飲みイクナイ。止められたらそれに素直に従う。
ああ、いつも思うのにどうして止められないかな。私って本当学習能力ないや。
だからあの人にも
「…………う」
やばい、これは実にやばいぞ。ネガティブゲートが開きそうな予感がするぞ。
そうだ、確か冷蔵庫に昨日買い足した梅酒があったような。のそりのそりと冷蔵庫に向けて這って進む。見慣れたボトルを見つけて、なんとか立ち上がり冷凍庫から氷も出した。グラスも用意して、氷をごろごろ入れたそこにだばだばと梅酒を注ぐ。
大丈夫。嫌なことなんて飲めばすぐに忘れられるよ。
そんなことを言って、高校生の私に初めてお酒を飲ませたのもあの人だったな……なんて。ぶっ壊れた涙腺はそのままに、ひたすらぐいぐいとコップの中身を減らしていく。
あの人たちは今どうしているのだろうか。あの頃と変わらず、元気でやっているのだろうか。
「まーた飲んでんの?」
「もー。いい加減禁酒しろ、きーんーしゅー」
「……まさおみくん」
しばらくして、シャワーから戻ったらしい双子ちゃんがいい匂いをさせながら顔をしかめて私からグラスを奪った。こいつら没収、と梅酒のボトルと氷をキッチンに持っていってしまう。
やだ、やめてよう、とぐずると、兄だか弟だかどっちかわかんないけどとりあえず正臣くんがびし、と私を指差した。
「お酒、禁止!」
「むり、だめ」
「無理じゃない。体壊すだろ!」
「やら!おしゃけ!」
「「だーめ!!」」
「うー!!」