「へー。で、お前はその時たぶらかした高校生二人を連れて俺の店に来たわけだ」
「人聞きの悪いこと言わないでくれるかな。否定はしないけど」
「しないのかよ」

ケラケラ笑いながらその人は私の頭を撫でた。ここの店の店長で、私の父方の従兄弟にあたるお兄さんである。金髪のなかなかのイケメンさんで、二人の正臣くんは彼をぽかーんと見上げていた。ふっふっふ、私の親戚にこんなイケメンがいるとは思わなかっただろう。ただし彼も例によって例のごとく、中身に少々難がある。まあそれは機会があれば話すとしよう。

「それじゃあ俺はこの双子ちゃんたちに、うまいメシを作ってやればいいんだな?」
「後腐れなく終わりたいんでめっちゃうまいのよろしく」

私がそう言うと、彼はキッチンに引っ込み「ウィ」と片手を挙げた。正臣くんたちはばっと私を見て何か言いたそうな顔。
なんだろう、彼について何か質問があるのだろうか。正臣くんたちのような若い男の子は、あれにはあまり関わらない方が身のためだと思うんだがなあ。

「後腐れなく終わるって何!?」
「砂羅さん、まさかここで俺らをポイする気!?」
「「ひでぇ!!」」
「…………」

そっちか。

そりゃあもちろん、あんな事故で知り合った高校生といつまでもつるんでいるつもりはない。高校生は高校生同士、大人は大人同士、それぞれのお付き合いがあるでしょう?
大体私に付き合ってたっていいことないよ。またナンパに明け暮れる日々に戻ってくださいな。君たちかわいいからすぐ女の子釣れるよ。ホイホイっとな。

「君たちは私になにを求めてるのよ……」
「そりゃあせっかくこうして出会ったんだし」
「暇なときには一緒に出掛けたりとか〜」
「何をするでもなくおうちでごろごろするとか〜」
「「とにかく隙間なく引っ付いてくっついてラブラブしたぁいっ!!」」
「却下」
「「早っ!」」

当たり前でしょー、と水を煽る私に彼らはぶうぶうと文句をたれる。
私にかまって何が楽しいんだかねぇ、うれしいけど。この様子だと女の子には困っていないだろうに。だったら他の女の子とでもよろしくやればいいのだ。私といたって楽しいことなんかひとつもないぞう、青少年。

「そう冷たいこと言うなよ、砂羅」

苦笑を浮かべた彼が、その手に前菜の乗ったプレートを持ってテーブルに来た。そういえば、ホールスタッフのみんなが見当たらない。今日はまだ忙しくないからだろうか。彼のことだから首を切った、なんてことはないだろうが……

「いいじゃないか、たまには高校生と遊んでみるのも。お兄ちゃんはこの子らに味方するよ?」
「おっ、お兄さん話わっかるぅ〜」
「そーそー、たまには若い子と遊ぶのだって必要なんすよ〜お姉さん?」

頼むから両側からくっついてすりすりするのやめてほしい。ますますうれしくなっちゃうでしょうが。ほだされちゃうでしょうが。私だって、顔のいい男の子には弱いんだからね!普通の女なんだからね!

うぐぐ、と唸る私の頭を、もう一度ぽんと撫でて彼は戻っていった。相変わらず双子は私の両側をブロックしてにやにやしている。

「は、離して、くれるかなあ」
「砂羅さんが俺たちと遊んでくれるって言ったら」
「離してあげるかもねーん!」

むぎゅううう、とますますきつく抱きつかれてしまい、脳内パンク寸前であります隊長……!
右を見ても左を見ても美少年、オープンキッチンではイケメンが困る私を見て楽しそうに笑っている。ちくしょう他人事だと思って、

「わかったから離れてぇ!!」
「「ヤダ!」」
「!?嘘つき!」
「だって砂羅さんスゲーかわいいし」
「なんてーの?ほっとけないっつーか」
「「だからもう、離したくねーんだよなぁ……」」

うっとりとした声がサラウンドで聞こえて、本気で固まった。オープンキッチンからはとうとう、堪えきれないといった様子で爆笑する声。すげーのに捕まったな、よかったじゃないか、なんて。全然よくないんですけどお兄さま!?

「ははっ……、……おーいジュモー?砂羅のこと、よろしくな」
「あ?え?」
「あ、はあ」

にやにやとカウンターに肘をついた彼が笑う。ああもう本当に質の悪い奴だ、料理は最高にうまいけど!
こうなったら高いワイン片っ端から空けてやる。もちろんあいつ持ちで。よし決めた今決めた。そして今日は絶対に前回のような失敗は、しない。気を強く持て自分。

「覚悟しろよ、この野郎……」
「おやおや怖い顔〜っ!」
「…………なあ、ジュモーって、なんだ?」
「わかんねえ……」





※ジュモー【jumeaux】=双子(フランス語)



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