「…………」
ちょっと、待とうか。
落ち着こう、落ち着けば、落ち着けるとき、落ち着け。うん、まず私よ落ち着け。落ち着いて今の状況を把握しよう。
昨日はちょっと、うん、いろいろあって仕事仲間と飲み明かした。べろんべろんのぐでんぐでんになるまで飲んだ。それは覚えている。お陰さまで今日は見事に二日酔いだ頭が痛い。
しかしどうやって帰ってきたのかが思い出せない。なぜ私はパジャマの上一枚というセクシーな格好で自宅ベッドに横たわっている。そして何より、
この、両脇で、私にぴっとりくっついて眠っている、上半身裸の、双子らしき少年たちは、
だーれー
やったのか。私、やったのか。酔っ払った勢いで年端もいかぬ(?)少年、しかも双子、つまり二人を相手に、やったのか。全然、記憶にないんですが?
え、マジで?
ありえない……
ゆっくりと起き上がり私は頭を抱える。悩む私を挟んで、髪を明るい茶色に染めた双子ちゃんたちはそれはそれは健やかに眠っていた。
ちょっ、あの、ベッドの下に脱ぎ捨ててある服とかリアルすぎてやだ、え、ウソ泣きたい。ウソだこれは夢だ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろお願い覚めて、いやだそんな、わたし、やったのか。
「…………ん……」
「んー……」
「!!!!」
しょぼ、と目をしぱしぱさせながら二人は目を覚ました。あの、夢だよね、誰かこれは夢だと言ってくれ。なんなら金払う。
泣きそうに顔を歪めた私を、左右から見上げる少年。二人はおんなじようにふにゃりと笑って同時に口を開いた。
「「……おっはよー、砂羅さん」」
瞬間、怒涛のように絶望が押し寄せてきた。
なんで二人とも私の名前知ってるのまさかまじでやったのなんで嬉しそうにに擦り寄ってくんの二人の髪から香るこれ私が使ってるシャンプーの匂いいやあああああ
「っふ、……うわーーーーーん!!」
「えぇー!?」
「なになにどしたー!?」
「あーもしかして、まだ足りないの?」
「だーいじょうぶだっての、俺たちがいるっしょ?」
「「安心してよ、マイハニィ」」
なんだ その 意味深な セリフは !!
っていうかマイハニィって、えええ。寒いよ……本当何者なのこの少年たち。
タオルケットを掴んで身を隠し、じりじりと後ろに下がる私を見て、二人は顔を見合わせた。同じ顔して同じように首を傾げて、同じ仕草で私に詰め寄ってくる。
「もしかして砂羅さんさ、」
「昨日のこと覚えてねぇの?」
左右対称の少年たちは首を傾けたまま尋ねてくる。情けないことに本気で泣きながらコクコク私は頷いた。
するとまた顔を見合わせた少年たちは、ニヤリ、と何やら意地悪く笑って見せて。かと思いきや今度は大げさに悲しそうな表情を見せてべらべら喋りだした。
「ひっどいなぁーこーんなイタイケな少年二人を家に連れ込んで!」
「あーっんなに激しくディープに愛し合ったのにも関わらず!」
「翌朝目が覚めて顔を合わせてみれば……」
「コロッと『覚えてないの(はぁと)』ときたもんだ!」
「「ははっ……とんだ小悪魔ハニーに捕まっちまったもんだぜー……」」
泣いた
信じられないくらい、泣けてきた。私もこんなに泣けたのか、ちょっと感動した。
もうやだ。いくら酔っ払ってたとはいえ、こんなさ……明らかにまだ中高生の男の子を家に連れ込んで、しかも二人。なんだよ私……そんなに欲求不満だったのか。やりたかったのか。
しかも記憶がないとか救い様がないじゃないか。最低だな、軽蔑するよマジで。
じゃ、一通り反省したところでそこの窓から飛んでみようか……
「え、あの、砂羅さーん?」
「えーっと、どこ行くの?」
「大丈夫4階だし死ぬには十分……」
「「ちょ、ちょっと待ったー!!」」
もぞ、とベッドから抜け出し窓に向かおうとする私の腰を、双子がガッガッと掴んで引き留めた。痛い。
いいのよ少年たち、気にしないでちょうだい、悪いのは全部お姉さんなんだからさあ……
「ウソ!ウソだから!」
「…………嘘?」
「うん!ウソ!ぜえんぶ、ウソ!」
ごめんね?と上目に見つめながら二人は言う。
…………嘘。全部、ウソ。…………。
よ
よかったああああああああああ
って安心して泣いている場合じゃない。ならばこの双子の少年たちは一体何者なのだろう。どうして私の部屋にいる?なんで一緒に寝てるの?
「マジで覚えてない……んすよね?」
「あー……うん……ごめん、ね?」
「いや、わかった。んじゃあ、全部説明する!」
今度は嘘偽りなく!
まったく同じ眩い笑顔でもって、二人の少年は口を揃えたのだった。